優秀な人材を大量に採用しているのに、ちっともチームのパフォーマンスが上がらないと悩んではいませんか。組織戦略の専門家である北野唯我さんは、天才や秀才を集めても、ある一つの要素がなければ組織はうまく機能しないと語ります。今回は、『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』や、「戦国武将の人事戦略」に焦点を当てた異色の経営本『戦国ベンチャーズ― 人事の天才・徳川家康と曹操に学ぶ、「強みの経営」とは?ー』仕事の教科書 きびしい世界を生き抜く自分のつくりかたなど、著書が続々と話題を読んでいる北野さんに、組織戦略のポイントについて聞きました。(取材・構成/川代紗生、マンガ/松枝尚嗣)

「才能はあるのにイマイチな人」と「普通なのに成果を出せる人」の行動の違いとは?Photo: Adobe Stock

組織にとって必要なのは「天才」ではない

──北野さんの著書『戦国ベンチャーズ』では「再現性のある人事戦略」が徹底して盛り込まれていますよね。人材の「強み」をどう見つけるのかなど、言語化するのが難しい部分もわかりやすい理論に落とし込まれていたので、目から鱗の連続でした。

北野唯我(以下、北野):ありがとうございます。「人材選び」となると、「やっぱり大事なのはフィーリングだよね」と直感に頼ってしまいがちなんですよね。でも実際のところ、直感の精度は人によって異なりますし、「なんとなく」の情報に左右されて判断するのはあまりに危険すぎる。私自身、「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家として多くの人材や企業を見てきましたが、多くの人が持つ本質的な悩みを解決するには、しっかりとした「判断軸」が必要だと思いました。

──戦国武将になぞらえて組織戦略について掘り下げた本書では、名将たちがどのようにして戦に勝ってきたのか、その組織構築の巧みさが描かれていました。とくに印象的だったのは、成果を出せる組織にもっとも必要なのは天才や秀才を集めることではないんだな、と。

北野:それは私も今回の本で強調したかったポイントです。「優秀な人材を集める」ことと「優秀な組織をつくる」ことは、必ずしもイコールではない。天才ばかりを集めたはずなのに、全員のポテンシャルが発揮されず、結果うまく回らないということも起こり得ます。逆に、とくに秀でた能力を持っていない人が集まったのに、一致団結したことによって思いがけないパワーを発揮する、ということもある。組織にとってもっとも必要なのは、天才ではなく「強みのコラボレーション」なんです。

「弱みを無効化」できる人材を選べ

──「強みのコラボレーション」とは、いったいどんなものでしょうか。

北野:ドラッカーのマネジメント理論には、こんな言葉があります。「強みを活かすことは組織に特有の機能である」と。

 人間には強みと弱みがある。誰だってそうですよね。生まれつき人当たりがよくポジティブな人もいれば、静かでコミュニケーションは苦手だけれど、腰を据えてものづくりをするのが得意な人もいる。ドラッカーは、人が集団になったとしても、そういった個人個人が持っている弱みを「克服すること」自体はできない、と語っています。つまり、人が集まったところで、その個人の「弱み」が消えるわけではない。「弱み」はずっと存在し続けるのです。

 さて、それでも人が組織をつくるべき理由は何か? それは、「弱みを無効化」できるという組織特有の機能があるからです。私たちは、それぞれが持っている「強み」を組織内で交換することによって、「個人の弱み」を無効化することができる。結果的に、全体の生産性が高くなり、共同の事業づくりを目指すことができるんです。

──なるほど。北野さんの著書『マンガ 転職の思考法』でも、転職活動で「みんなに好かれる必要はない」「1社に好かれればいい」と強調されていましたが、自分の強みを活かせる組織を見つけられればいい、ということだったんですね。

「才能はあるのにイマイチな人」と「普通なのに成果を出せる人」の行動の違いとは?

北野:そのとおりです。採用する側は、いまの組織の「弱みを無効化」できそうな人材を選ぶようにし、採用される側は、自分の強みを必要としてくれる組織を転職活動で探してみればいい。だからこそ、直感だけに頼るのではなく、冷静な「判断軸」に基づいた自己分析・組織分析が必要なんですよね。まずは、自分自身の経験や実績を洗い出して、強みの分析ができるといいんじゃないかと思います。

 強みの種類や探し方については、『戦国ベンチャーズ』にも書いてあるので、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。