いま話題の『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)。
著者の脳内科医・加藤俊徳氏によると、左利きと右利きでは「脳の仕組み」が違うといいます。それはいったい、どんな違いなのか……。「左利きの疑問」を解き明かすため、加藤氏にお話を伺いました。(構成・塩尻朋子)

左利きは「芸術的な才能」がある? 脳内科医が解説!Photo: Adobe Stock

左利きは幅広い視野で世の中を見ている

──ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチなど、歴史に残る、偉大な芸術家は左利きが多いという話をよく聞きます。実際に左利きは、芸術的な才能に恵まれているのでしょうか?

加藤俊徳先生(以下、加藤):そうですね、「芸術」が、“絵画、音楽、演劇などを通じて、独自の感性で美を表現するもの”だと言えるのであれば、左利きは間違いなく才能に恵まれているでしょう。

──ではなぜ、左利きは芸術的なセンスがあるのでしょう。

加藤:そもそも人間の脳は、利き手側に意識を向けやすくなっています。右利きなら自分の右側、そして左利きは左側に、無意識のうちに注意を払っています。

 左脳を損傷しても、右脳の働きに問題がなければ、両方の空間を認識することができるのに、右脳を損傷してしまうと、左側の空間を認知できなくなってしまうことがあります。そのため、脳科学の世界では、左手を使って刺激する右脳は、目の前に広がる、左右両方の空間を見ていて、左脳は右側の空間しか見ていないと考えられています。

 手を使うことは、同時に空間を認識する脳番地を刺激します。(脳番地の関連記事:最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?

 左利きは、左手を使うことで、常に空間認識力が広い右脳を活性化させています。

 そうして、無意識のうちに幅広い視野を持って暮らしていることで、ほかの人にはない着眼点が生まれるといえます。

──独自の感性を生み出しやすいということですね。

加藤:そうですね。さらに、10人に1人しか存在しない左利きは、常に「まわりと違う自分はなぜ?」、そして「どうやったら、右利きと同じことができるようになるか」を考え抜いています。

 たとえば、親が右利きで子どもが左利きの場合、お箸の使い方を見て学ぶには「ミラードローイング」する必要があります。

 ミラードローイングとは、鏡に映る反転した像を、鏡を見ながら描くことです。左利きは「右手で箸を使っている」人を見ながら、反転したイメージで左手で箸を使わなければなりません。

 ミラードローイングをするときは、指の角度や箸の持ち方など、細かい点まで観察しなければ動かすことはできません。そして、ミラードローイングをすると、視覚系脳番地のほかに、前頭葉にある運動系、思考系、伝達系の脳番地が特に刺激されます。

 そうして左利きは、右利きの人であれば、できて当たり前のことに一つ一つ、時間をかけて考え、多くの脳番地を刺激しているので、自分なりの発想が生まれやすいといえます。

左利きはイメージを「言語化」することで
才能を発揮しやすくなる

──でも「左利きだけど、絵は苦手」という人もいますよね?

加藤:もちろん、左利きにも「絵を描くのが苦手」という人はいるでしょう。ただそれは、芸術作品を仕上げるための、いくつもの段階のうちのどこかで躓きが生じているにすぎません。

 たとえば、絵を描く場合、「書きたいイメージを思い浮かべる」→「構図を決める」→「ラフを描く」→「細部を描き込む」などのステップがあります。

 このいずれかの段階で、たとえば、構図の決め方がわからない、色鉛筆や筆をどう使えばいいかわからない、など、技術を知らないから苦手と決めつけていることが少なくないと考えられます。

 そのため、絵を描いて完成させるステップの何ができないのかを知ることで、才能を開花させることができるでしょう。

──左利きであれば「書きたいイメージを思い浮かべる」のは、誰でも得意だと言えるのでしょうか。

加藤左利きは、目でとらえた情報をイメージで記憶する傾向が高い。また、常に左手でイメージ脳である右脳を刺激していますから、頭の中にイメージのストックがたくさんあります。ですが、それを「書きたいイメージ」として、上手に取り出すためにはコツが必要です。

 左利きが独自の視点で取り入れたイメージは、何もしないでいると、ただぼんやりと頭に浮かんでいるだけです。それを、あえて「言語化」するという一手間をかけてあげましょう。

 言語化して、言葉で自覚することで、よりイメージが明らかになり「描きたいイメージを思い浮かべる」ことができます。

右利きも左利きの視点を持てる?

──なるほど。では、右利きが左利きのような視点を持つのは難しいのでしょうか。

加藤:私は、右利きの人は芸術的才能がないと言っているわけではありません。右利きの人は、言語を操る左脳を常に刺激しているので、たとえば絵を描くのであれば、描きたいことを言葉で考えることができたとしても、右脳を使う「描きたいイメージを思い浮かべる」段階が苦手な人が多いはずです。

 そうであれば、モノのありのままをとらえるなどの訓練をすればいいのです。

──モノをありのままにとらえる?

加藤:「ありのままにとらえる」というのは、写真に写すように画像でとらえるということです。

 言語脳である左脳が優位な右利きは、何かを目にしたときパッと「カワイイ」「おしゃれ!」と言葉が先に出がちです。すると、言語で状況をとらえてしまうため、イメージ脳の右脳が働きづらくなります。

 モノを見たら、何か言葉で描写したくなるのをこらえて、細部にわたるまで、あるがままを見つめてみましょう。そして、じっと言葉を抑えたあと、「この取っ手は、何のためにあるのだろう」「いつ頃に作られたものなのかな」などと、考えを膨らませていきましょう。

 その上で、もし絵を描くとして、「構図を決める」→「ラフを描く」→「細部を描き込む」などのステップで、苦手なパートがあればトレーニングすればいいのです。