「圧力鍋型」の日本的経営は終焉。誰もが「鍋の外」に出される時代へ「圧力鍋型」の日本的経営は終焉。誰もが「鍋の外」に出される時代へ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

スターバックスやザ・ボディショップなどでCEOを務めた岩田松雄氏。多くの有名企業で実績を残してきた岩田松雄流の経営哲学を伝授します。岩田氏が語る「真のリーダーが持つべき2つの能力」とは?

真のリーダーに必要な
2つの能力

「この人について行きたい!」と思われるようなリーダーとなるために必要な資質は、何だと思いますか?

岩田松雄岩田松雄(いわた・まつお)
リーダーシップコンサルティング代表。大学卒業後、日産自動車に入社。外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ役員を経て、ゲーム会社・アトラスの社長として3期連続赤字企業を再生。その後に社長を務めたイオンフォレスト(ザ・ボディショップ)では売り上げを約2倍に拡大させる。2009年、スターバックス コーヒー ジャパンCEOに就任。2011年、リーダーシップコンサルティングを設立。著書に『新しい経営の教科書』(コスミック出版)など。 Photo by Teppei Hori

 挙げようと思えばいくらでも出てくると思いますが、私は、大きく分けて、「徳」と「才」の2つだと思います。もしかすると渋沢栄一が重視した「論語と算盤(そろばん)」も、その本質は、「徳=論語」と「才=算盤」についてなのかもしれません。

 渋沢栄一の言葉に、次のものがあります。

「私は人を使うときには、知恵の多い人より人情に厚い人を選んで採用している」

「徳」とは、世の中や周りの人に貢献しようとする心のことです。

「あの人は人格者だ」と呼ばれる人がいます。私欲がなく、周りの人を思いやることのできる人です。ゆるぎない信念を持った人や、大変な苦労を経験した人の中に、そのように呼ばれる人が多くいます。自分のミッションを持っており、さまざまなトラブルが起こっても、倫理的に正しい行動をすることができる人です。

 一方の「才」とは、頭の回転の速さ、経営理論や財務の知識であり、「スキル」と置き換えても良いかもしれません。

 最近では、ビジネススクールでマーケティングやファイナンスを学び、MBAを取得する人が年々増えています。いろいろな専門知識を駆使しながらロジカルに物事をさばいていく。ある意味、その典型が、戦略コンサルタントでしょう。

研修ではスキル面だけでなく
「人」を磨く必要がある

 本来、真のリーダーには、この「徳」と「才」の両方の能力が必要です。しかし日本の教育は、この「才」の部分のみに注力しているように感じます。

 江戸時代、大人の学問といえば、いわゆる「四書五経」(※儒家の経典)を読んで、人としての徳を高める教育のことを指していました。いわゆる「読み・書き・算盤」のスキルの部分は、寺小屋で子どもの頃に済ましておくべきことでした。

 もちろん、現代において20代の頃は、業務の知識、PC、英語などのスキル面を強化することが大切です。しかし、真のリーダーを目指す人にとって、「才」よりも「徳」の部分を強化していく必要があるのではないかと思います。

 私の周りにも、まともな敬語も使えない東大卒の経営者もいれば、人間的に傲慢で人を見下すことしかできない世界的なコンサルティング会社の元日本支社長もいます。「徳」の部分が足らず、頭が良いというだけでトップになるから、大企業でも不祥事が頻発するのです。こういった人たちは、ハサミや鉛筆と同じように、仕事をさばくためのツールとしては重宝するかもしれませんが、真のリーダーになることはできません。

 企業内の研修でも、スキルに関する研修のみを行っている企業が大半ですが、役職が上がれば上がるほど、「人としてどう生きるか」という、「徳」の部分にもっと重点を置くべきだと思います。

「徳」と「才」について、スターバックスコーヒー創業者のハワード・シュルツ(現在、CEOに復帰)と、ザ・ボディショップ創業者のアニータ・ロディックを比べてみましょう。