日系企業にとってのロシア・ウクライナ危機、地政学的リスクへの対応力強化が急務Photo:PIXTA

ロシアによるウクライナへの侵攻が長期化し、民間企業の活動にも重大な影響が生じている。このような危機に際し、日系企業に求められる対応と、得られる教訓とは何だろうか。本稿では、地政学的リスク分析のプロが、日系企業が直面するリスクと、国際危機への対応力強化の方法を解説する。(コントロール・リスクス・グループ、コンサルタント 菊池朋之)

ロシアのウクライナ侵攻により高まる不確実性
企業としての「地政学的リスク」

 2021年末からロシア軍の軍事演習を口実としたウクライナ国境付近への集結が進み、軍事的緊張が高まっていた。少なくとも1月末ごろまで、動員されているロシアの陸海空を合わせた20万人近い正規軍による全面的な武力侵攻の蓋然性は、必ずしも高いとはみられていなかった。すなわち、ロシアがウクライナへの全面侵攻を実施した場合に想定される必要なコストや制裁による損失が大きく、プーチン大統領の米欧への脅威認識と勢力圏の考え方があったとしても得られるものは限定的であるため、ウクライナおよび米欧から外交的譲歩を引き出すための脅しにとどまる可能性が指摘されていた。

 しかし、ロシア軍の動員の内容や規模が軍事演習のためだけにしては不自然な点も多く、ロシア軍の展開状況や部隊の動きから警戒感が徐々に高まった。日系各社からの当社へのロシア・ウクライナ情勢に関する問い合わせも、2月前半以降に増加した。プーチン大統領の21日の演説などから警戒感はさらに高まり、結果として2月24日にロシア軍のウクライナ侵攻が開始された。

 ウクライナへの軍事侵攻作戦はロシアの想定通りには進まず、長期化の様相を見せつつあり、国際的な軍事的緊張の状態が継続している。既に民間企業の事業活動にも、為替、インフレ、制裁対応、そしてスタッフの安全など、多方面において重大な影響が生じている。では、ロシアのウクライナ侵攻という国際的危機が日系企業や組織にもたらす影響と、求められる対応やリスク管理とはどのようなものなのだろうか。

ウクライナ侵攻で高まる「地政学的リスク」
予測困難なプーチン政権の意思決定

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響は、既に日本を含む多くの国の社会、生活、そして事業活動において生じている。では、ロシアの行動や意思決定が地政学的リスクの不確実性を高めていると言えるのはなぜだろうか。経済のグローバル化に伴い、国家間の経済的相互依存が進展することで、経済的合理性から戦争の蓋然性は低下すると考えられる。つまり、国家が合理的な主体であるという前提に基づけば、国家間の相互依存の進展によって、戦争のコストや損失は大きくなっている。

 ロシアも経済的に化石燃料の輸出に依存しており、実施される制裁や国際社会からの反発を想定すれば、ウクライナへの全面的軍事侵攻という意思決定は合理的であるとは言えない。この点に関して、プーチン大統領の意思決定が、どのような政治過程やコスト・損失計算、価値判断でなされたのかについては興味深い観点ではあるが、現時点では推測の域を出ない。

 少なくとも客観的に見れば、経済的相互依存が拡大した現在の国際社会において、ウクライナへの侵攻によってロシアが得るものは明らかに損失のほうが大きく、戦闘の長期化と制裁強化に伴いそのコストは大きくなり続けている。つまり、企業や組織は国家が予測の困難な非合理的な意思決定を行う可能性があることを前提に、地政学的リスクとその影響を検討し、対応策や事業戦略を検討するという難題に直面している。

事業環境の変化に備えよ
日系企業に必要なのは「インテリジェンス能力」

 では、日本の企業や組織は、ロシアのウクライナ侵攻により生じるリスクに対して、どのように備える必要があるのだろうか。