イノベーションを生む起業家が、情報収集で大切にしていること

3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「別解力の高いビジネスパーソン」として尊敬しているのが、ラクスル株式会社代表取締役・松本恭攝氏と、ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリ氏。松本氏は2008年にA.T.カーニーに入社後、2009年にラクスルを創業。2018年に東証マザーズへ上場後、翌2019年に東証一部への上場を果たしている。
佐俣氏はEastVenturesを経て2012年にANRIを設立。シードステージの投資に特化し、4つのフラッグシップファンドと脱炭素特化型 ANRI GREENファンド(累計約400億円)を運営する、若手NO.1ベンチャーキャピタリストだ。2020年には初の著書、『僕は君の「熱」に投資しよう』を出版している。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代に圧倒的な成果を出す「起業家の思考法」について、三人に語っていただいた。
連載の第1回は、松本氏の「別解力」をテーマとして「優秀なやり方」の突き詰め方について話しが広がった。
(構成 林拓馬)

ラクスル株式会社・松本社長の「別解力」

――松本さんはご自身の「別解力」をどう分析されますか?

松本恭攝(以下、松本) あまり「自分らしさ」へのこだわりはないですね。マクロで見たとき、正しいと思うかどうかです。

印刷業界は巨大な下請け構造がありながら、当時はインターネットの「イの字」も入っていない非効率な業界に見えました。「インターネットで多重下請けを無くす新しい仕組みをつくれる」という仮説だけを持って参入したんです。実は競合他社の存在すら知りませんでした。

参入後は仮説を実証するため、とにかく解像度を上げることに注力しました。ひたすら現場を回って、人に会うことを繰り返したんです。

マクロ的な視点で上から入って、その後ミクロで下をつくり上げるイメージをもっています。

たとえば、事業計画を立てる時には、自社の利益率を設定しなければなりません。そのとき、同じ業態のプレイヤーの利益率、利益構造をとにかく調べて、「ベストでここまで出ているから、きっとこのぐらいまでは行くだろう」と理論的に仮説を立てるんです。

アンリさんに投資をしてもらった時も、「理論上、利益はここまで出る」というプランを持っていきました。実際、それは5~7年後にほぼ正しかったことが分かります。

ラクスルのマーケティングによる拡大も、Amazon、アスクル、MonotaROがゼロからの立ち上げから一定規模までにいくらかかっているかを調べました。グロースにかかる投下資本の目安を考えるにあたり、彼らが何に投資をしているのかを調べ、ベンチマークにしたんです。

「PLとして、ベンチマークと同じことをやる」が基本的な考え方なので、大きなストーリーとして、あまりオリジナリティは出さないようにしていました。

イノベーションを生む起業家が、情報収集で大切にしていること松本恭攝(まつもと・やすかね)
ラクスル株式会社代表取締役社長CEO
1984年富山県生まれ。慶應義塾大学卒業。A.T.カーニーに入社し、コスト削減プロジェクトに従事する中で、印刷費が最もコスト削減率が高いことに気づき、印刷業界に興味を持つ。業界の革新を志し、2009年にラクスル株式会社を設立。2013年より印刷機の非稼働時間を活用した印刷のEコマース事業「ラクスル」を提供。また、2015年12月より物流のプラットフォーム「ハコベル」を開始し2020年4月からは広告の新規事業「ノバセル」、2021年9月からはコーポレートITのプラットフォーム「ジョーシス」を展開。「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる」をビジョンに巨大な既存産業にインターネットを持ち込み、産業構造の変革を行う。

佐俣アンリ(以下、佐俣) 客観的に見ると、恭攝さんの「自分らしさ」は「マクロのデータを信じて、それが正しいとするまで迷わないこと」ですね。

「印刷が行けるだろう」と思って参入しても、ほとんどの人は中途半端にやって失敗して「やっぱこの市場、無いです」と撤退するわけです。

恭攝さんの場合、失敗しても「データを見ていれば間違えるはずはない」と言って正しくできるまでやり続ける。それは恭攝さんしかできない、オリジナルです。

松本 マクロでは間違っていないと思っている分、「間違っているのは自分のやり方だ」という考えが強いのかもしれませんね。うまくいかない時は解像度が低い。トライアンドエラーで解像度を上げ続けるしかないと思います。

イノベーションを生む起業家が、情報収集で大切にしていること佐俣アンリ(さまた・あんり)
ANRI 代表パートナー
慶應義塾大学卒業後、East Venturesを経て2012年にベンチャーキャピタルANRIを設立。シードステージの投資に特化し、現在4つのフラッグシップファンドで累計約350億円を運用中。2022年より気候変動・環境問題に特化したANRI GREENファンドを設立。主な投資支援先はLayerX、NOT A HOTEL、hey、Mirrativ、アル、Rentioがある。日本ベンチャーキャピタル協会理事。
著書に『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)