新型コロナとともに、定着したかに見えるテレワーク。多くのビジネスパーソンが、WEB会議やチャットツールの使い方など、個別のノウハウには習熟してきているように見えるが、置き去りにされたままなのが「テレワークのマネジメント」手法だ。
これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その解決策を示したのが、パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ、株式会社セルムエグゼクティブコンサルタントで元パーソル総合研究所執行役員の髙橋豊氏が執筆した「テレワーク時代のマネジメントの教科書」だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。

テレワークでの新人育成には<br />「アンラーニング」が必須の理由Photo: Adobe Stock

テレワーク下ではOff-JTを効果的に使うべし

 全員が出社していた時は、新人を隣につかせて仕事を教えるOJTが一般的でした。テレワークになると、そのようなOJTが通用しなくなるため、これまでよりも研究や勉強会などのOff-JTを効果的に使っていくことが必要になります。

 そのとき、最初に考えるべきことは「新人にいかに行動変容を促すか」ということです。学習の本質は「新たな知識を得ることによって、自分の行動が変わること」ですし、実際のところ新人が学生気分のままで仕事のノウハウだけを習ったところで、組織のなかで戦力になるのかといえば、残念ながらなりません。

 従来の「見て覚えろ」という形のOJTであれば、上司や先輩の気迫を肌で感じたり、リアルタイムで本音を聞いたりすることで目の醒めるような思いを味わい、新人が自発的に行動を変えていくこともあり得たでしょう。けれども、あらゆることがオンラインに移行したいま、行動変容につながるような教育は戦略的に考えねばなりません。

 アメリカの組織行動学者、クリス・アージリス氏は「ダブルループ学習」を提唱しました。ここでは、学習結果によって単に行動だけを改善することを「シングルループ学習」と呼びます。それに対して、学習結果を受けて、それまでに築いてきた価値観を捨て去り(「アンラーニング」または「学習棄却」)、新たな自分となって行動変容に向かうことを「ダブルループ学習」と呼びます。

 アンラーニングを実行するには、自分自身を俯瞰して眺めて分析する「メタ認知」という段階を踏まねばなりません(「メタ認知」について、詳しくは本書67ページ参照)。アンラーニング(Unlearning)とは、アルビン・トフラーの「21世紀の無教養な人とは、読み書きのできない人々ではなく、学び(Learning)、学んだことを捨て去り(Unlearning)、学び直す(Relearning)ことができない人々である」というフレーズにでてくる言葉です。

 アンラーニングは、現在持っている価値観(成功体験の蓄積)の中で、将来にわたってそぐわなくなっているものを捨て去り、新しい価値感(成功体験)を積み重ねていくことで、スピードの速い現代においては新人ばかりでなく全ビジネスマンに必要とされているものです。

 Off-JTで「ダブルループ学習」が済んでいる、つまり「アンラーニング」が済んでいる状態だと、本格的なOJTに入った後に行動変容がスムーズにでき、社会人としての着実な成長が見込めます。

 本書では昨今は「正解は教えてもらえるもの」という気持ちで入社する新人が多いというお話をしましたが、そのようなマインドセットがアンラーニングされているかどうかも、その後の成長を大きく左右します。なお、アンラーニングを行うためには以下の手順が必要です。