Daniel Yergin,ダニエル・ヤーギンダニエル・ヤーギン(Daniel Yergin)/S&Pグローバル副会長。エネルギー問題の世界的権威で、『石油の世紀―支配者たちの興亡』でピュリツァー賞を受賞。近著『新しい世界の資源地図』では、エネルギーや気候変動を巡る国家同士の衝突を描いた Photo:Bloomberg/gettyimages

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、エネルギーと地政学は新たな転換点を迎えようとしている。激変する「資源地図」について、エネルギー問題の世界的権威であるS&Pグローバル副会長のダニエル・ヤーギン氏に聞いた。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

欧州はロシアをエネルギーの
望ましくない供給者と見なす

――ロシアによるウクライナ侵攻をどう捉えていますか。

 ロシアがウクライナに仕掛けた戦争は、ロシアのプーチン大統領が冷戦終結に伴うさまざまな合意を拒否したということを本質的に示しているのだと思います。

 プーチン大統領は長年にわたって、ウクライナが独立国家であると認めませんでした。ウクライナはエネルギーと地政学という観点で、非常に重要な国家です。ロシアと西側諸国との対立の中心地なのです。その対立が地政学とエネルギー、とりわけロシアの天然ガスに密接に関連しています。近著『新しい世界の資源地図』(東洋経済新報社刊)でウクライナに焦点を当てたのは、このためです。

 プーチン大統領は、ウクライナを掌握することについて、彼の論理の中では「正しい決断」だと考えたとみられます。しかし、彼にとって多くの誤算がありました。

 その誤算とは、ロシア軍の進撃が思うようにいかなかったことであり、ロシアに対するウクライナ人の激しい抵抗であり、ロシアにエネルギーを依存する欧州の予想外の反応であり、そして米国の固い意思でした。その結果が、ウクライナでの残酷な戦争です。

――ウクライナ危機は、ロシアの世界での立ち位置にどう影響しますか。

 プーチン大統領の狙いは、ロシアを偉大な国家として復権させることでした。しかし、今回のウクライナ侵攻によって、プーチン大統領は自らの首を絞めました。

 ロシア経済は世界経済から大きく切り離されることになります。欧州はもはやロシアを、信頼できるエネルギー(原油、天然ガス、石炭)の供給者ではなく、むしろ望ましくない供給者として見なすでしょう。今後何年にもわたって、欧州はロシア産エネルギーへの依存度を下げるつもりです。