ロシアがウクライナに「ゴリ押し」を続ける理由、日本への教訓とは?Photo:PIXTA

今回のロシア・ウクライナ戦争はいまだに進行中だが、「勝利」についての戦争研究の視点からは両者のやり方の違いが見えてくる。あくまで現時点の情報からの観察でしかないが、ロシアとウクライナがいかなる「勝利」に向かっているのか、そしてそこからの教訓を考察したい。(安全保障アナリスト/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 部谷直亮)

戦争における2つの「勝利」とは

 戦争研究では「戦争における勝利」と「軍事的勝利」は峻別される。前者は戦争全体における政治的および戦略的な勝利であり、後者は純軍事的な問題――作戦および戦術レベルの勝利とも換言できる――における勝利だ。

 米国陸軍大学元教授のブーン・バーソロミューは、戦術・作戦レベルの勝利は戦争における勝利に直結せず、むしろそうした勝利を果たしたにもかかわらず戦争に負ける例もあると指摘する。むしろ戦術や作戦レベルでは敗北しているのに、戦争に勝利した例もあると説明する。

 戦術・作戦レベルの勝利、別の言い方では「軍事的勝利」とは、合理的に定量可能な指標――相対的な損害や軍事目的の達成度――を用いて評価される。孫子と双璧をなす『戦争論』を執筆したクラウゼヴィッツが「敵の物質的な力の喪失、士気の喪失、意図の放棄」と定義したように客観的に測定可能な事実に基づきやすい。

 逆に、戦略レベルやそこと重なる作戦レベルの勝利、換言するならば「戦争における勝利」は国際社会や両国内の主観的な意見や見解の総合したものである。直接的な言い方をすれば、戦後の政治状況に対する世論の評価によって決まる。戦争における勝利は、死傷者や領土の拡大縮小などの客観的基準とは直結しない。関係のある場合もあるし、ない場合もある。

 また、これは、好ましい政治的結果を伴わない戦術的あるいは作戦的勝利は無意味であることも意味している。

 バーソロミューは、戦略的勝利は認識によって決まるからこそ、視点によって異なるとする。戦争に参加した双方が勝利宣言を行う――あのイラクのサダム・フセインですら湾岸戦争で勝利宣言ができた――のは、このためだ。

 この考え方を使ってかつての戦争を分析すれば、イラク戦争において米側はフセイン政権全体の軍事力を完膚なきまでに粉砕し作戦・戦術レベルでは勝利した。しかし戦後統治を含めた全体的な戦争の勝利を得られなかった。結局、コストに見合った果実を得ることなく、中東全体から撤兵することとなり、戦略レベルでの敗北に至った。