2009年3月期に対前年比で大幅な減収減益に陥る見込みのホンダ(本田技研工業)は、昨年12月にF1からの撤退を表明した。

 当時のプレス発表を見ると、「将来への投資も含め、さらに経営資源の効率的な再配分が必要との認識から、F1活動からの撤退を決定いたしました」とある。その後も「鈴鹿8時間耐久レース」への参加見送り(マシン貸与を除く)を発表するなど、矢継ぎ早のリストラ策に取り組んでいる。

 前回のコラムで紹介したニッサン(日産自動車)が、神奈川にある生産ラインの海外移転や2万人規模の人員削減といった“外科的なリストラ策”を採用しているのに対し、ホンダの場合は主に研究開発費の削減など“内科的なリストラ策”が中心になっている。

 大赤字予想のトヨタ(トヨタ自動車)やニッサンに比べれば、不況への耐性が強いと言われるホンダだが、いずれにせよ「やはり大不況の波を乗り切るのは難しいのか」といった印象を持つ人が多いだろう。

不況を乗り切るための
普遍的な戦略はない?

 しかし、何でもかんでも景気のせいにするほど、ことはそう単純ではないようである。筆者の顧問先企業(自動車部品メーカー)では、「不況だから製品が売れない」という愚痴を禁句にしている。これもまた経営戦略のひとつだろう。

 最近、「不況を乗り切るための普遍的な経営戦略やコスト削減策は存在するのか」と、各方面からよく問われる。不況に効く万能薬や特効薬は、いまだ開発されていないようである。そんな薬があったら、誰も苦労はしない。

 筆者の顧問先企業を訪ねると、各社各様、各生産ラインごとに異なる難題が山積していて、あたかも“オムニバス映画”を観ているような気分になってしまう。それも当然だ。A社で通用する改善策がB社でも通用するような“没個性の企業”では、そもそもこの不況期を乗り切れるわけがないからである。

 本コラムの目的は、抽象的な「あるべき論」を展開することではない。個々の具体的なケースを採り上げながら、読者各位にそこから多少なりともヒントを掴んでいただければと考えている。今回採り上げるホンダのケースは、「普遍的な価値観だけで企業の現状を正確に判断することはできない」という、よい参考になるはずだ。