社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列#11Photo by Masato Kato, REUTERS/AFLO

日本株ストラテジストなどとして30年以上資本市場に身を置き、シティグループ証券取締役副会長などを歴任してきた一橋大学の藤田勉客員教授は、日本企業「ガバナンス劣化」の現実を直視すべきだと喝破する。特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#11では、形ばかりで実が伴っていない、社外取締役頼みの企業統治の実情を、金融界の重鎮が根本から大否定する。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

日本企業のガバナンスは劣化している!
器だけを入れても無意味

――コーポレートガバナンス・コード(以下、CGC)の整備をはじめ、企業統治向上へ官民とも取り組みを進めてきましたが、日本企業のガバナンスを率直にどう評価していますか。

 残念ながら、国際比較すると「日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)は劣化している」と言わざるを得ません。まずは、この現実を謙虚に受け止め、CGCなどの企業統治改革そのものを、抜本的に改革することが必要でしょう。

 CGCは2015年に導入されました。その目的は「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上」とあります。つまりそれ以降、日本企業が持続的に成長し、かつ中長期的に企業価値が向上していればCGCは成功ですし、そうでなければ失敗です。

 実際には導入後、日本企業の国際的地位は大きく低下しました。今や世界の時価総額上位100社に入る日本企業はトヨタ自動車しかありません。米国と比べると、日本は自己資本利益率(ROE)や数年来の株価上昇率なども大きく劣っています。

 さらに、日本ではこの数年で多くの大型不祥事が発生し、経営者が引責辞任しています。日産自動車、関西電力、日本郵政、東芝、みずほフィナンシャルグループ、三菱電機などがその具体例です。不祥事を起こす企業は、ガバナンスに問題があるといえます。このように、私には「日本企業のガバナンスが劣化している」との事実は、議論の余地がないように思えます。

藤田勉・一橋大学大学院経営管理研究科特任教授ふじた・つとむ/一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。元シティグループ証券副会長。約30年、ファンドマネジャーやストラテジストを務めた。2010年まで日本株ストラテジストラニング5年連続1位 Photo by M.K.

 一方で私と異なり、「日本企業のガバナンスは良くなっている」と主張する方々もいます。根拠を尋ねると、「社外取締役の数が増えた」「企業と機関投資家の対話が活発化した」「持ち合い株や政策保有株が減った」「多くの企業で指名委員会が導入された」などという答えが返ってきます。つまり、「形式が整ったのでいいガバナンスになった」という主張です。

――企業統治改善のためには、CGCのような器だけを入れても意味がない、ということでしょうか。

 そうですね。私は「優れた企業統治」とは、社外取の数のような「形」を整えることではなく、優れたリーダーや、それを支える経営チームの構築によって実現されるものだと考えています。

「日本企業のガバナンスが良くなっている」と主張する人は、社外取の役割を過度に評価する傾向にあります。いわば「月に1度しか会社に来ない人の割合が増えるほどいいガバナンスになる」とか、「月に1度しか会社に来ない人が中心になって社長を選ぶと、いい社長が選ばれる」と主張されているわけです。

 私には、これらはよく理解できません。以降、その理由を詳しく説明していきましょう。

次ページでは日本郵政、東芝、みずほフィナンシャルグループ、三菱電機などの失敗例だけでなく、米アップル、トヨタ、リクルート、日本電産、オリンパスなどの事例も紹介。藤田氏が、なぜ日本の社外取が機能しないのか、数少ない成功事例からは何が学べるのかを、明快に喝破する。さらに、CGC発祥元の英国ではなぜ導入が失敗に終わったのか、1970年代から最新の「ボード3.0」までの経営形態を巡る変遷も平易な表現で紹介。現役経営者のみならず、部長・課長クラスも必見だ。