手塚治虫作品の表紙作中のキャラクターには、手塚治虫の思考や信念が当然反映されている。偉大なマンガの名言の数々は、時代を超越する真実への手がかりを提供してくれるはずだ Photo:South China Morning Post/gettyimages

レビュー

 正義とは何か。強さとは、人間とは、苦、死とは――。

 一つひとつが大変に重い、いずれも容易に答えが出ない問いだ。

『手塚治虫マンガを哲学する 強く生きるための言葉』書影『手塚治虫マンガを哲学する 強く生きるための言葉』 小川仁志著 リベラル社刊  1540円(税込)

 本書『手塚治虫マンガを哲学する 強く生きるための言葉』には、そうした問いが50用意されている。『ブラック・ジャック』や『鉄腕アトム』といった手塚治虫の代表作を中心に10作が取り上げられ、登場人物のセリフをもとに、「正義」や「命」は何かといった真実に迫っている。1作品につき5テーマ設けられ、より卑近な「肩書きとは」「バンソウコウとは」といった問答もある。

「肩書きとは何か」と尋ねられ、あなたはどう答えるだろうか。「私は賞とか肩書きとかが大っきらいでねえ」と言い放つブラック・ジャックなら、どうだろう。

 強さ、戦争、国家、人間、命、死――。一生かかっても答えにたどり着けなさそうな深遠な問いの数々。しかし、手塚治虫の生み出した作品を読むと、不思議とその答えに近づけた気になる。1970~80年代に連載された『ブッダ』では「死ぬということは、人の肉体という殻から、生命がただとびだしていくだけだ」と説かれている。