一度も病院にかかることなく、一生を終える人はほとんどいない。高齢化が進む今は特に、自分だけではなく家族や近しい友人のうち、誰かしらがいつ思わぬ疾患を抱えてもおかしくはない。そんなとき、病院にかかるためのコツのようなものはあるのだろうか。『すばらしい人体』の著者で、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ、外科医の山本健人氏に、医師の診察を受けるときの心構えについて聞いてみた。(取材・構成:真山知幸

【医師が教える】緊張する診察室で「医師の話」を上手に聞くための1つのコツPhoto: Adobe Stock

偏った医療情報の弊害

――山本先生は旺盛に執筆活動を行いながら、ブログやSNSでも積極的に情報発信されています。外科医として患者さんと向き合いながら、よくそれだけのモチベーションが保てるなと、驚かされます。

山本健人(以下、山本):むしろ、外科医として日々患者さんと接するほど、情報発信の必要性を感じます。というのも、今は患者さんが自分の病気について、何の知識を持たずに来院することはあまりありません。

 多くの場合、インターネットで事前に調べてから、医者にかかるのです。そのこと自体は悪いことではないのですが、偏った医療情報に振り回されてしまっているケースを見ることがよくあります。

「ある日突然」では、慌ててしまう

――インターネット上の医療情報は玉石混交ですものね。

山本:ただ、患者さんがネット上の膨大な医療情報を目の前にして、正しい判断ができなくなるのは、仕方がないことでもあります。誰だってある日、突然、思わぬ症状が出たら慌てるじゃないですか。パニック状態のときに冷静に情報を精査するのは困難です。

 だからこそ、健康なときから正しい医療情報にアクセスする方法を知っていてほしい。そんな思いから、医療情報を日々発信するようにしています。

患者が知っておくべきこと

――でも病院にかかる患者さんの立場からすれば不安ですよね。自分が診てもらう病院で、必ずしも正しい判断がなされるとは限らないわけじゃないですか……。

山本:もちろん、病院や医師を見極めることも、場合によっては必要かもしれません。ただ、患者さんに今一度、知っておいてほしいのは、今の保険診療の現場では、原則、エビデンス(科学的根拠)に基づいた治療が行われているということです。

 数々の臨床試験で、十分な検討がなされて、より根拠がある医療を、患者さんはどこの医療機関でも受けられる。それが「国民皆保険制度」という恵まれた制度でもあります。

 医師によって十人十色の医療が行われているわけではなくて、どこでも適切な治療を受けられるシステムが目指されています。そのために膨大な公費が投入されていますからね。過度に不安を抱くことのないように、その点を頭に置いておいてほしいと思います。

「ドクターショッピング」の危うさ

【医師が教える】緊張する診察室で「医師の話」を上手に聞くための1つのコツ山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。

――「もっとよい医師がほかにいるのではないか……」と、次々と医師を変える「ドクターショッピング」に陥る患者さんもいます。どの医療機関でも標準治療が受けられることは、改めて周知したいですね。

山本:意外と知られていないのが、病院を替えるリスクです。病院を替えるということは「これまでの治療経過を自分の目で一度も診ていない医師が初めて診る」ということにほかなりません。

 これまで診てきた医師と、初めて診る医師の間に情報格差が生まれ、これがスムーズな治療を難しくすることがあるのです。

 ドクターショッピングのように次々と医師を替えるのがお勧めできないのは、これが理由です。

 特に慢性的な病気の場合、治療の効果がすぐには現れないものです。

 そのため、患者さんは「治療がうまくいっていない……」と思っていても、医師からみれば「治療がうまくいっている」というケースがあり、患者さんと医師との間にすれ違いが生じることがあるのです。

病院にかかる際に気をつけること

――病院にかかる際に、患者さんが気をつけたほうがよいことがあれば教えてください。

山本:基本的なところだと「服装」です。「血便が出ている」と症状を訴えながらも診察時にきついガードルを履いていて肛門を見せにくかったり、腹痛での受診を希望しているのにワンピースを着ていてお腹を出しにくかったりすると、患部の診察が難しくなります。

 症状があるところが露出しやすい格好で、病院にかかるようにしてください。

 また、お薬手帳を忘れずに持参することや、これまでかかった病気について「いつ、どんな病名で医師にかかり、どんな治療をしたのか」を把握しておくことも重要です。

医師の話の聞き方のコツ

――なるほど、事前に頭を整理しておくことで、医師に症状を的確に伝えられるわけですか。

山本:医師の話の聞き方にもコツがあります。それは「メモを用意しておく」ということ。医師の話を聞きながらメモをとり、分からなかったことを後で質問しやすくしておくのがお勧めです。

 できれば、家族の方に同席してもらい、メモをとる係を引き受けてもらうと、聞き逃しや勘違いが防げて安心できるでしょう。

――どうしても難しい医療用語が出てくると、医師が説明してくれていても、思考停止してしまいがちですからね。

山本:基本的なことだけでも医学の知識があると、いざというときに慌てなくてすみますね。

すばらしい人体』の巻末には、「人体・医学に興味を持った人たちにお勧めしたい本」も紹介しています。ぜひ活用してもらえればと思います。