紙の図面と試作機によるすり合わせといったアナログなものづくりでの成功体験が、日本の製造業のDXを阻んでいる。現地現物主義や現場力といった日本の強みを活かしながら、製造プロセスとビジネスモデルのDXを進めるためには、設計を起点とする「3Dデジタルツイン」が大きな威力を発揮する。

デジタルですり合わせ、
デジタルで現場力を引き出す

編集部(以下青文字):日本の製造業におけるデジタル化の現状をどうご覧になっていますか。

ラティス・テクノロジー 代表取締役
鳥谷浩志
HIROSHI TORIYA
理学博士。東京理科大学上席特任教授。リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1997年ラティス・テクノロジー技術統括部長、1999年代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のDXを3Dで実現することに奔走する。著書に『製造業のDXを3Dで実現する』(幻冬舎、2021年)、『製造業の3Dテクノロジー活用戦略』(同、2016年)など。

鳥谷(以下略):日本の製造業では、3D CAD(3次元コンピュータ利用設計システム)など、上流の開発・設計を中心にデジタル投資が進んできました。たとえば、2020年版の『ものづくり白書』によると、3D CADの普及率は60%強(2次元データの併用を含む)となっていますが、協力会社への設計指示を3Dデータで行っているのはわずか15・7%で、紙図面での設計指示が半数を超えています。

 つまり、3D設計は図面を描くためだけに行われており、後工程の生産技術、生産、販売、保守などとデジタルでつながっていません。

 何がボトルネックになっているのでしょうか。

 DXのD(デジタル)が進んだとしても、Xは組織そのものの変革であり、文化を変えないといけないので難しいのです。具体的には、紙の図面と現地現物で行ってきた高品質なものづくりという成功体験の呪縛が、ボトルネックとなっています。

 日本の製造業は、難解な図面でも現場が読み解いて実機をつくり、現地現物ですり合わせして、設計にフィードバックし、高品質なものづくりを実現してきました。このアナログなものづくり手法が成功しすぎたため、DXに乗り遅れているのではないでしょうか。

 日本の製造業の強みを活かしつつ、成功の呪縛から脱するには、「デジタルですり合わせし、デジタルで現場力を引き出す」ことです。現地現物と紙図面の文化をデジタルに置き換えれば、製造プロセスのDXを進めることができます。

 それを実現する手法として当社では、「3Dデジタルツイン」を提唱しています。ここでいう3Dデジタルツインとは、3D形状と部品表(製品構成)を統合した3Dモデル、つまり、製品と完全に対応する3Dモデルを指します。

 日本の製造業のほとんどは、3D CADで3Dの形状だけをつくり、部品表は表計算ソフトなどで別途作成しています。このため、生産技術以降の工程では図面と部品表をばらばらに受け取り、それをベースに試作して実機で検証し、そこから、作業手順書や製造用の部品表を作成することになります。その結果、実機検証で課題発見のタイミングが遅れたり、至るところで情報の分断が起こり、そのつど情報を再入力したりするといった無駄が発生します。

 3Dモデルと部品情報がひも付いた3Dデジタルツインをつくれば、実機を使わずにデジタルですり合わせができます。組み立て手順もデジタルで定義し、本当にその通り組み立てられるのかVR(仮想現実)環境で検証することも可能です。

 さらに、パーツカタログやサービスマニュアルを作成し、ウェブで保守サービス部門に配信することもできます。このように、設計段階で3Dデジタルツインをつくり込むことで、後工程でのDXが現実のものになるのです。