米コカ・コーラ社が自社サイトをウェブマガジンのような読み物サイト「Coca-Cola Journey」に刷新するなど、企業がプロの編集者の力を借りて、あたかもメディア運営会社のように、有益な記事コンテンツを制作・発信するウェブマーケティング手法が急増している。

 例えば、前出の「Coca-Cola Journey」では、商品紹介は二の次として、同社がスポンサードするCSR活動の成果やコカ・コーラ飲料を使った料理レシピ、同社のアンティークノベルティーグッズの紹介から同社でのインターンシップのエピソードまで、幅広いテーマを記事として取り上げている。

 国内でも企業がFacebook公式ページを開設し、おトクなセール情報やおもしろい画像などを投稿し、ファンに閲覧・シェアしてもらうことで知名度を高める手法が浸透しつつあるが、なぜいまこのような手法が注目を集めているのか、専門家に話を聞いた。

「企業が顧客が必要とする情報を理解し、それを適切にコンテンツとして提供することで、購買につながる行動を段階的に引き起こす手法を“コンテンツマーケティング”と言います」(日本SPセンター渡辺一男社長)

 日本SPセンターは、3月4日~6日に豪シドニーで開催されるコンテンツマーケティングに特化した世界最大級のカンファレンス「CONTENT MARKETING WORLD 2013 SYDNEY」で、国内企業として初のメディアパートナーになっている。また、セキスイハイムが運営するニュースサイト「スマラボ」にも関わっている。

 渡辺氏によれば、コンテンツマーケティングが注目を集める背景には、以下の四つの要因がある。

 一つめは、“メディアの変化”。「従来は、媒体を借りて宣伝するしか方法がなかったが、今では自社メディアやSNSのようなアーンドメディアを活用することができるようになった」(同氏、以下同様)からだという。

 二つめは、“ユーザーの変化”。「スマートフォンやタブレット端末の普及で、必要なときに必要な情報にいつでもアクセスできる環境が整ってきた。それに伴い、いわゆる“ながら視聴”に代表されるように、ユーザーのメディア消費が断片化してきたため、従来の割り込み型の広告の効果が薄れてきた」。

 三つめは、“商品の複雑化”。「すべての商品に当てはまるわけではないものの、商品が単純だった頃は、マスリーチを図ることが効果的だった。今や商品が複雑化し、ユーザーにとっての選択肢も増え、見込客によって“刺さる”ポイントも違ってくるため、伝えたいメッセージも変わってくる」。

 四つ目は、“検索エンジンの変化”。「Googleは2012年7月に“パンダアップデート”を実施した。これは、ユーザーにとって重要な情報を提供しているサイトの掲載順位が、より適切に評価されるというもの。こうした変化により、従来のSEO対策よりも、コンテンツの重要性が増してきている」。

 このような背景からコンテンツマーケティングは注目を集めているが、顧客にとって有益な記事コンテンツは、どのようにすればつくり出すことができるのだろうか。

 渡辺氏によると、まずはマーケティングに一般的な3C分析やSWOT分析を行い、その後に、以下のような四つのステップを踏む。

1. ペルソナ設定:ターゲットとなる読者像を想定する。

2. セールスプロセス視点によるコンテンツ配置:企業側の視点でまず用意すべきコンテンツの配置を決定する。

3. バイイングサイクルの分析によるコンテンツ調整:ターゲット読者がどんなコンテンツをほしがっているのかという視点で調整する。

4. コンテンツマップ作成:コンテンツの全体像を作成する。

 つまり、「企業側が考えるターゲットの購買までのステップ、情報を受け取るターゲット読者の購買行動との両面から必要なコンテンツを炙り出し、その上で全体像をつくる」のだという。

 例えば、米国でSaaS型の家計簿ソフトを提供しているmint.comの場合、子供を大学に入れるための貯蓄方法やペットにかかる生涯費用など、“家計”にまつわるテーマについて幅広くブログ形式で配信し、利用を検討するユーザーの背中を押していると言えるだろう。

 もちろん企業や商品によって、コンテンツマーケティングという手法の向き不向きはあると思われる。しかし、メディアの変化、ユーザーの情報接触形態の変化、商品の複雑化、検索エンジンのコンテンツ重視の姿勢などが続く限り、その必要性は増していくだろう。

(岡徳之/tadashiku & 5時から作家塾(R)