好調な滑り出しを見せた安倍政権の「アベノミクス」。はたして期待先行から実体経済の回復へとつなげることはできるのか? 最新著書『日本経済を創造的に破壊せよ!』で経済政策に不可欠な戦略を提言し、現政権の経済財政諮問会議議員をも務める著者が、アベノミクスで動き始めた日本に向けてリアルタイムに直言する新連載!

【新連載】<br />民主党政権下の「失われた3年」を克服し<br />日本はデフレマインドから脱却できるか?いとう・もとしげ
1951年静岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長。安倍政権の経済財政諮問会議議員。経済学博士。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウォーキング・エコノミスト」として知られる。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーターなどメディアでも活躍中。著書に最新刊『日本経済を創造的に破壊せよ!』(ダイヤモンド社)等多数がある。

デフレしか知らない世代

 今、私が大学で教えている学生たちは、生まれてから今までデフレの経済しか知らない。経済はつねに低迷し、物価や賃金や不動産価格は下がり続けている。経済とはそういうものだと思っている。

 そうした人たちに「デフレマインドを捨てなさい」と言っても簡単にできるものではない。インフレの経験はないのだから、物価や賃金が確実に上昇していく状況を想像することは難しい。

 若い人たちだけではない。我々の世代であれば、80年代末のバブル経済も知っているし、1970年代の狂乱物価も経験した。しかし、そうした経験ははるか昔のことであり、実感として残っているわけではない。この10年以上どっぷりとデフレに浸かってきて、デフレでない経済を実感として考えにくくなっているのだ。

 アベノミクスは、こうしたデフレマインドへ挑戦状を叩き付けようとしている。これを克服するのは簡単なことでない。それなりの大胆な行動を起こさない限り、日本中に蔓延したデフレマインドを払拭することはできそうもない。政府も日本銀行も、これまでずっとデフレ脱却を目指すと言ってきた。それでもそれがかなわなかったのは、デフレが続くほど、デフレマインドを壊すことが難しくなってきたからだ。