注目の日本銀行首脳人事が先般決着した。黒田東彦氏の総裁就任もさることながら、岩田規久男氏の副総裁就任が注目される。岩田氏は、金融緩和政策の代表的な論客であるのと同時に過去の日銀を徹底的に批判してきた人でもある。

 できたら総裁にと思わぬでもなかったが、岩田氏が日銀の内部に入ることは画期的だと筆者は思う。ご活躍に大いに期待したい。

 まず、有効な金融緩和策を実行する上での議論の主導を期待する。日銀の金融政策は、金融政策決定会合の多数決で決まるのであり、総裁・副総裁の一存で決まるわけではない。正副総裁3人以外の委員は、「小出しの美学」、白川方明前総裁の政策におおむね賛成してきた人たちだ。一方で長いものには巻かれるだろうとは予想するものの、これまでの政策を不連続に変えることには抵抗感があろう。

 また、現在の政策は、すでに「期待への働きかけ」を通じて、円安と資産の上昇をもたらしており、効果が出始めている。これらは、経済活動全般を活性化する作用がある。ただし、これは、「日銀は少なくともインフレ率2%までは金融緩和策をやめない」という予想を市場参加者がどれだけ強く信じるかにかかっている。だからこそ、日銀の正副総裁人事がこれだけ注目されたのだ。これは、同時に、岩田副総裁が十分な存在感を発揮し続けること自体が金融政策の一部であるという側面を持つ。存在感に期待するというのは奇妙に聞こえるかもしれないが、マーケット関係者は実感を伴って理解していると思う。

 三つ目の期待は、岩田氏が日銀の「中」にあって、同行の意思決定と行動の仕組みや組織の問題点を、人間集団や文化のレベルを含めて解明し、可能な部分は、適切に再教育し修正することだ。

 将来、著作にまとめられることを期待したいが「岩田氏の目で中から見た日銀」は興味深い。