『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』著者の山口揚平さんとマネックス証券代表取締役社長CEOの松本大さんとの対談・後編です。前編以上にお金の本質に迫る議論が繰り広げられていきます。

現在の問題を解決するには
インフレを起こすことが最も理に叶った方法である

山口揚平(以下、山口) もちろんお金は交換手段ですが、僕は「共同体が持つ価値と信用を結晶化したもの」と考えています。そうした場合、適度のインフレを起こすために「お金を刷る」という行為は、お金の価値を薄めることにつながります。事情はあるにせよ、国民が営々と積み上げてきたものを時の為政者がコントロールすることそのものが、果たして「あり」なのかということを考えてしまいます。僕は若者世代を応援する立場ですが、お金を刷ることは年配の人たちが稼いで積み上げた預金の価値を下げて「希薄化」させてしまうわけですね。これについては、どのように考えればいいのでしょうか。

「踊る阿呆に見る阿呆」で言えば、<br />今はアベノミクスに「踊る」ときである松本大(まつもと・おおき)マネックス証券代表取締役社長CEO。87年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券入社。その後、ゴールドマン・サックス証券に勤務し、94年に30歳で同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。99年にマネックス証券を設立した。『「お金の流れ」はこう変わった!』(小社刊)、『お金という人生の呪縛について』(幻冬舎)など著書多数。

松本大(以下、松本) 僕は山口さんとは違う考え方で、お金を刷ることが価値を「希薄化」させるとは思っていません。

 お金がなかった時代とお金という考え方や貨幣、紙幣というお金を表象するものができたあとの時代では、どちらが経済の発展が加速したでしょうか。お金ができたあとですよね。お金がない時代の交換手段は「物々交換」しかありませんでしたが、お金の発明と同時に、同じ場所に集まらなくても物をお金と交換できるようになった。そして、次に紙幣が発明されると、紙幣は薄く額面をいかようにもできるので、お金を貯めてから物を買うことができるようになった。遠く場所の離れた場所にお金を持って行きモノを買えるようにもなった。

 お金の発明によって分業が加速化し、その結果、経済が自分の周りだけだったところから広がり繁栄してきたんですよね。長い歴史の上で経済発展の陰の立役者はお金、とくに紙幣でしょう。人類最大の発明だと思います。紙幣が流通することで信用がつくられ、経済が拡大してきたのです。

きわめて単純化してお話しますが、お金がたくさんあるよりも少ないほうがいいというのであれば、帰納法的に考えると、お金がゼロのときが最も良いことになります。お金はあったほうがいい。だからお金が増えていくというのは、間違った方向ではないように思いますね。

山口 なるほど。

松本 いまの日本には預金が豊富にありますが、国は債務超過の状態にあり、いつかは是正しなければならない。ただし、日本は完全に内国ファイナンスですよね。国のオーナーは僕たち国民なので、キプロスのように「徳政令」をかけて預金を減らすか、税金を大幅に上げて穴埋めするしか方法はありません。

 でも、もうひとつ手があります。それがインフレを起こすことです。インフレを起こせば、国のバランスシート(貸借対照表)の資産側にある株や不動産の価格が上がります。一方の負債側は、年金にしても借金にしても固定金利ですから、インフレが起これば現在価値が小さくなるのです。インフレは金利を上昇させるので、現在価値に修正するときの割引率が上がるからです。資産が増えて負債が減れば、債務超過の状態は改善するわけです。