原発立地地域のフィールドワークで注目を集め、最新刊『漂白される社会』(ダイヤモンド社)では、売春島、ホームレスギャルといった「見て見ぬふり」をされる存在に迫り続ける社会学者・開沼博。そして、東日本大震災を機にそれまでの自分を捨て去り、「詩の礫」としてTwitterでありのままを紡ぎ始めた詩人・和合亮一。
対談第2回は、第一人者としての権威に縛られる葛藤から、裸の自己を取り戻すまでへと話は深まる(全3回)。

Twitterで知った感情のうねり

開沼前回の最後『詩の礫 起承転転』(徳間書店)では迷いが書かれていると仰っていました。その「迷い」っていうのは具体的にどんな迷いなんですか?

和合 いろいろあるんですけど、例えば、5月末くらいからデモが始まりましたよね。僕は参加していませんけど、福島でも、毎週デモが行われているんです。

開沼 福島県庁の近くで行われている…。

和合 そうそう。そのときにある方から「和合さんデモに出ますか?デモに出るならぜひ取材したいんですけど」と連絡がありました。また、ある団体からは「反原発集会をやるんですけど、詩の朗読をしてくれませんか?」という連絡がきたこともあります。

 僕は『ふるさとをあきらめない』(新潮社)というインタビュー集を作ったときに、現地に行って話を聞いています。もちろん、僕の態度としても原発を認めてはいませんが、そこには東電でお父さんが働いているという子どもがいっぱいいるんですよ。彼らはそれで心を痛めています。

開沼 原発の近くで暮らす人たち、子どもたちからはそういった話をよく聞きますね。

権威で後退させられた詩人としての直感 <br />自分のモノサシで等身大の違和感を伝えたい <br />【詩人・和合亮一×社会学者・開沼博】1968年、福島市生まれ。現代詩人として活躍しつつ、国語教師として高校の教壇に立つ。第1詩集『After』で第4回中原中也賞受賞。第4詩集『地球頭脳詩篇』で第47回晩翠賞受賞。2011年3月11日の東日本大震災以降、ツイッター上で詩を投稿し、『詩の礫』(徳間書店)、『詩ノ黙礼』(新潮社)、『詩の邂逅』(朝日新聞出版)を3冊同時刊行。これらの作品は「つぶてソング」「貝殻のうた」他、楽曲にもなる。最新作『詩の礫 起承転転』(徳間書店)を2013年3月に刊行。
オフィシャルウェブサイト:http://wago2828.com/
Twitter:@wago2828

和合 そんな話をいろいろ聞いたこともあり、僕はニュートラルに発言したいと思っていました。先日も産経新聞のインタビューで、「ニュートラルな立場から、原発を認めないと言っていきたい」と語ったんですけど、読者からは「がっかりした」とTwitterに書かれもしました。

 原発は基本的に認められないけど、お父さんが東電に働きにいっている浜通りの子どもたちも父親のことを心配して、心を痛めているんです。

開沼 そうですね。

和合 デモについてtweetをするとRetweetが普通のRetweetとまったく違うんですよ。開沼さんはTwitterをされていますか?

開沼 一応やっています。基本的に告知しか行いませんが。

和合 普段の10倍くらいのリアクションを感じます。7月1日に大飯原発の再稼働が決まったとき、21時の起動をめがけてのデモがすごかったんです。そのとき、僕は青山で講演していました。講演が終わっていつものように打ち上げをしていて、ネットニュースを見たらすごいことになっている。妻からも電話がありました。「ネットがすごいよ」と。

 その日も21時からtweetを始めているんですが、すごかったですよ、Retweetのリアクション。そのときに思ったのは、デモに参加している人・できる人もいるけど、参加していない人もみんな感情のうねりを持っているんだなと。Twitterを通してそういった気づきがあり、Twitterを続けていこうという励みもそこで生まれました。