アベノミクス効果で市場は円安で推移、輸出業にとってはひさかたぶりに追い風が吹いています。しかし、日本が「安くて品質が良い」を売りにできたのははるか昔の話。価格の面では中国、韓国や新興国に押され、品質の面でも違いを際立たせるのが難しい状況になっています。では、そんな中でどのような戦略で国際競争に打ち勝っていくのか。30年以上前に出版され、戦略論の古典として今なお実践的に読まれている『競争の戦略』の中にヒントがあるかもしれません。

個々の企業の行動が原因ではない
――競争激化の5つの要因

 1982年10月に初版が発行された『競争の戦略』は、その後95年に新訂版が出され、今日まで30年以上の長きにわたって読み継がれてきました。

日本企業は再び打ち勝てるのか?<br />体系化された「競争」理論の中にあるヒントM・E・ポーター著『[新訂]競争の戦略』
1995年3月刊行。本文中にもあるとおり、初版の刊行は1982年10月。新訂版では装丁を新たにするとともに、初版で省略していた原注と参考文献を追加。480ページ超、A5版上製の造本も相まって、歴史を感じさせる存在感を放っています。

 発刊当時、ハーバード・ビジネス・スクール教授だった著者のマイケル・E・ポーターは、「業界内で競争激化が起こるのは、偶然そうなるのでもなければ、またそれは不運な現象でもない。競争の根は業界の経済的構造の中にあるわけで、個々の競争しあう会社の行動が必ずしも激化の原因ではない」(17ページ)としたうえで、競争状態は1. 新規参入の脅威、2. 代替製品の脅威、3. 顧客の交渉力、4. 供給業者の交渉力、5. 競争業者間の敵対関係、といった5つの要因によって決定されるものであると指摘しました。

5つの競争要因が一体となって、業界の競争の激しさと収益率を決めるのであるけれども、戦略策定の立場からいうと、そのうちいちばん強い要因が決め手になるわけである。たとえば、業界内で、新規参入業者を寄せつけないほどの不動の市場地位を確保している会社であっても、より高品質で低コストの代替製品があらわれると、収益率は低下せざるをえないだろう。すごい代替製品も出現せず、強力な新規参入業者もあらわれないとしても、既存の競争業者間の戦いが激しくなると、収益率は低下せざるをえなくなる。(20ページ)

 むろん、競争の第一要因は業界ごとに異なります。業界の基本特性を発見し、その特性の上に企業の競争戦略は策定されなければならないとポーターは主張します。