ビッグデータのビジネス活用が本格化しつつある中、今年3月27日、東京駅近くのJPタワー ホール&カンファレンスにおいて「日立流通セミナー~ビッグデータを売場の力に~」が開催された。各分野の専門家が自身の体験から、流通分野においてビッグデータの活用がどのような効果をもたらすのかを検証。ビッグデータをビジネス価値につなげるための課題、それを克服するためのアプローチなどを明らかにされ、今後のビッグデータ活用に期待が膨らむ。

多様化の時代、従来型の手法では顧客をつかめない

深澤 献
「週刊ダイヤモンド」副編集長

1989年上智大学文学部新聞学科卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」でサービス業界(ホテル・旅行など)、ソフトウェア業界、流通・小売業界、通信・IT業界などの担当記者を経て、2002年10月より現職。

 最初に登壇したのは、深澤献・「週刊ダイヤモンド」副編集長である。自身が関わる雑誌の読者像も含めて、「本当の顧客」を知ることは困難と強調した。

「例えば、大学が卒業生像を示すために、OBにアンケート調査をするとしましょう。調査票を送付するといった手法で、本当に卒業生の平均的な姿が分かるでしょうか。そもそも、調査票がすべての卒業生に届くわけではありません。消息不明の人もいるでしょうし、届いても返信したくない人もいます。結果として、調査に回答するのは自分の今の状況を知らせたい成功者ばかりということにもなりかねません」

 マーケティング調査も同様だ。顧客像の調査が難しい上、近年はますます顧客の価値観が多様化している。深澤氏は次のように指摘する。

「総中流時代には、マーケターが自分を顧客代表と考えて商品を企画しても、それほど大きな間違いはなかったのかもしれません。しかし、これほど価値観が多様化した時代に、従来型のやり方が通用するのでしょうか。これまでとは異なる仕掛けが求められています」

 その仕掛けとして期待されているのがビッグデータの活用である。

「ソーシャルネットワークの発達で、生の消費者の声や活動の様子が、それもリアルタイムに。データとして手に入るようになりました。これを活用しない手はありません。

 勘や経験に基づく意思決定から、データに基づく意思決定へ。それは、武士の時代における刀から鉄砲へのパラダイムシフトのようなものかもしれません。江戸幕府は鉄砲の普及を制限するために、御用学者を総動員して『飛び道具は卑怯』という価値観を広めました。それは鎖国を前提とした対策です。

 現在のようなグローバル経済のもとで、『ビッグデータを使うとは卑怯なり』というわけにはいきません」

 では、ビッグデータをどのように活用すれば、ビジネス価値を引き出すことができるのだろうか。また、その際の注意点はどのようなものか。こうしたポイントについて、以下のスピーチに沿って考えてみたい。