輸出市場の大きさだけで
利益を議論すべきではない

 民主党政権時代、TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加に反対する議員の方との新聞紙上などでの討論に、しばしば引っ張り出された。

 そのときよく聞いたTPP交渉への反対論は、「これから日本の輸出先として重要性を増すのは中国である。米国中心のTPPに参加しても日本には経済的利益は小さいだろう」というものであった。

 中国の経済成長に陰りが見え、尖閣諸島問題でこじれた日中経済関係を考えると、今となってはこの議論は色あせて見える。

 ただ、当時はまだ尖閣諸島問題が表面化しておらず、輸出市場の大きさを考えればTPPよりも日中韓のほうが魅力的であるという議論はそれなりの説得性があった。そう考えたから、TPP反対派はこの議論をしばしば出していたのだろう。

 もっとも、輸出市場の大きさだけを見て、経済連携協定の利益の大きさを測るというのは、まったく間違いとは言えないものの、相当に怪しい見方ではある。経済連携協定を結ぶ利益は、相手の市場に輸出しやすくなるという面だけにとどまらないからだ。

 日本にとって貴重な資源やエネルギーの輸入確保を実現する、海外への投資の環境を整備する、国内の制度を開放型にすることによって経済活動を刺激する、などさまざまな利益が考えられる。

手法の違いによる
TPP参加の利益評価の差

 日本がTPPをはじめとする諸々の経済連携協定に積極的に取り組む目的が、「グローバル経済の活力を日本に取り込むため」というのであれば、その利益は単に輸出市場の大きさだけに限定するわけにはいかない。

 TPP参加交渉を決断するのに先立ち、政府は、日本がTPPに参加することでどの程度の経済利益が期待できるのか、数値モデルを用いた算出結果を発表している。