赤、紺、緑の3色重ねに白抜きで「Union Pay 中国銀聯」。昨今、この銀聯マークをあちこちで見るようになった。銀座の百貨店、新宿の家電量販店、上野のジュエリーショップなど、およそ中国人訪日客が行くであろう小売店には、このシールが貼られている。これは日本円がなくても「人民元で買い物できますよ」というサインだ。

 店内の専用POS端末に、銀聯カードを通すと利用代金が中国の自分の口座から落ちる。手数料もなく、中国人にとってはお財布そのものだ。否、外貨持ち出しの上限に縛られず、中国での預金残高を上限に欲しいものをゲット(*)できる“魔法のカード”と言っても過言ではないだろう。

(*)自動車や不動産などの固定資産は銀聯カードでは買えない。

 中国銀聯とは中国人民銀行が02年に設立した金融サービス機関だ。銀行間接続ネットワークを運営する会社で、異なる省、異なる銀行間の決済をスムーズにさせるための機能を全国に導入することを目的に発足した。一方、デビットカードとしての機能も併せ持つ。02年の導入後、瞬く間に中国全土に普及し、09年6月には20億枚を発行するに至った。

 04年になると、中国人の海外旅行ブームに乗って銀聯のネットワークも国境を超える。香港を皮切りに、09年6月には61の国と地域で59.7万台のATM機が稼動し、銀聯の端末を置く加盟店は45万店にまで増えた。

 なぜ、これほど加速度的にネットワークを広げることができたのか。その背景には2000年以降の外貨準備高の急増がある。90年代前半は100億ドル台で推移していた外貨準備高も、今や2兆ドルを超すほどに積み増している。政策も変わり、「もうドルはいらない」とばかりに、中国市民に対しても海外での消費を奨励するようになった。中国人が海外渡航する際に持ち出すことのできる外貨も5万ドルまで拡大した。

 しかも、銀聯カードさえあれば実質青天井だ。クレジットカードであれば利用限度額に拘束されるが、銀聯カードは預金残高まで使える。「中国人セレブが何百万円の高級腕時計を買った」というのは、“都市伝説”でも“マスコミの暴走”でもなく、この銀聯カードが可能にするシナリオなのだ。