ビール業界にとって久しぶりの朗報である。

 今年7月のビール系飲料(ビール、発泡酒、新ジャンル)の課税出荷数量は9.6%増となり、5ヵ月ぶりの対前年比プラスとなった。

 だが、じつは7月の販売増にはカラクリがある。昨年7月が天候に恵まれなかったため、今年はよほど涼しい夏にでもならない限り前年実績越えは堅いと見られていたのだ。

 関東地方では、昨年より約2週間早く梅雨が明けて猛暑となった。この時点でビール業界には楽勝ムードが漂っていた。問題は8月である。昨夏は7月の不振を8~9月の酷暑で取り戻し、販売数量を一気に伸ばした。今夏は正反対で、8月半ばから天候不順が続き、さらに景況悪化がのしかかっている。

 7月の販売数量の中身を見ても手放しでは喜べない。ビール3.4%増、発泡酒4.2%増に対して、「第3のビール」と呼ばれる新ジャンルが35.9%増と群を抜いている。つまり、安い新ジャンルでなければ売れない状況にあるわけで、家計引き締めに走る消費者心理の一端が垣間見える。景気がさらに悪くなれば、あっという間に販売数量が落ち込む公算は大きい。

 ビール系飲料市場は1994年のピークを境にして減少に転じており、さらに今年はメーカー各社が原材料高騰を理由に値上げに踏み切っため、そもそも販売減は必至の状況だった。

 今年8月の中間期決算発表においても、アサヒビール、キリンビール、サッポロビールの3社が年間販売計画を3%~5%も下方修正している。年初時点で、メーカー各社は値上げをある程度織り込んで、販売数量を悪くても「2%減まで」と見ていたから、状況はさらに悪化しているということだ。

 大手4社のなかではサントリーの独り勝ちが続いており、上半期にはついにサッポロを逆転して業界3位に躍り出た。しかし、同社の好調は、売り上げの3分の2を占める缶入り商品の価格を据え置いた ――有り体に言えば「安売り」した――ことによるもので、9月には遅ればせながら値上げに踏み切る。

 サントリーの値上げによって、8月に大量の駆け込み需要が発生する可能性はあるが、9月以降は確実に反動減に転じるため、市場の攪乱要因にはなっても、市場全体の拡大には寄与しない。

 今年1~7月分累計のビール系飲料の課税出荷数量は約341万klで、前年同期の347万klに比べ、まだ1.8%減にとどまっている。残暑の猛暑に見舞われた昨年8~9月並みの売り上げを獲得してマイナス分を挽回できなければ、ビール系飲料市場はさらに縮むことになる。

 昨今の気候を考えれば、どうやら7月の販売数量増はぬか喜びに終わりそう。街はすっかり初秋の趣だが、ビール業界にも同じように秋風が吹き始めている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)