今年に入ってから、消費者金融大手・武富士の融資姿勢に異変が生じている。新規の無担保ローン成約率を低下させる戦略に方針転換したのだ。

 新貸金業法の施行によって、上限金利は29.2%から一気に15~20%にまで下がることが決まっており、アイフル、アコム、プロミスといった競合他社は、とうの昔に新規融資を絞っている。

 武富士以外の大手各社は、1年半前は5~6割で推移していた新規の成約率を、すでに3割台にまで引き下げてきた。

 ところが、武富士だけは昨年1年間を通じてほぼ5割台をキープ。ライバル会社からは「逆張り戦略」と呼ばれ、その成否が注目されてきた経緯がある。

 逆張り戦略の背景にあるのは、単に貸し出しを絞るだけでは、収入が先細りになってしまうという危機感。そこで、少額なら貸せる顧客をこまめに拾い、地道に新規融資を積み上げる作戦に出た。たとえば50万円の融資申し込みに対して10万円貸すといった与信方針で、新規の成約率を維持してきたわけだ。

 その武富士が白旗を掲げて、逆張り戦略をこの時期に撤回したのはなぜか。

 第1に、上限金利の引き下げに加えて、顧客の年収に応じて融資金額の上限が決まる「総量規制」が実施される。これにより、新規融資の余地がさらに小さくなるのは間違いない。

 第2に、不気味な貸し倒れが増加している。与信を絞って優良顧客だけを選んでいるはずなのに、貸してわずか数ヵ月で貸し倒れになるケースがなぜか増えているのだ。理由は不明だが、ある業界関係者は、「クレジットカードの債務整理をした客が流れてきているようだ」と分析する。

 いずれにしても、消費者金融やカード会社が一気に与信を絞ったため、個人債務者の資金繰りが急速に悪化しているのは確か。

 米GE傘下の「レイク」など、準大手のサラ金が軒並み「売り」に出ているが、「すでに企業価値はゼロ以下」(業界関係者)。つまり、売り手が逆にカネを払って引き取ってもらうというのが買収交渉のスタンダードになりつつあるというから驚きだ。

 武富士の方針転換は、貸金業自体がビジネスとして成立しなくなっていることを示唆する。政策的対応がなければ、廃業・倒産の波が大手に波及するのは時間の問題だろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 津本朋子)