最近の最も意外性のない経済ニュースは、別名「石原銀行」こと、新銀行東京の経営の行き詰まりだ。金融マンなら、無担保無保証で中小企業に融資する銀行をつくるという当初のビジネスプランを聞いたときに、「それがうまくいくなら、われわれがやっているよ」と思ったことだろう。同行の経営は順当に行き詰まった。官僚がかかわったビジネスでは、自分たちの判断ミスを認めず失敗の総括を先送りしようとすることも含めて、まったく予想どおりの展開だ。

 さて新銀行東京では、融資に際し、他の金融機関も使っているようなスコアリング・モデルを使い、このモデルが期待どおりに機能すれば、時にデフォルトが起こるとしても、その影響は貸出金利に込められた利ザヤで十分吸収できるはずだった。

 しかし実際には、他の金融機関で融資が受けられない借り手が集まる、保険でいう「逆選択」が働いており、そもそも中小企業相手に、審査を簡略化するアプローチは無理だった。判断に使う確率を推定する際のサンプルの母集団と、これを実際に適用する対象とのあいだに明らかな違いがある場合には、モデルは期待どおりに機能しない。東京都と初期の経営者は、規模を拡大して融資件数を増やすと、リスクが吸収できると思ったのだろうが、そうはいかなかった。

 新銀行東京のケースほど単純な金融常識の無視ではないが、米国のサブプライムローンの証券化商品でも、リスク分散の効果を見誤ったのではなかろうか。

 証券化に際しては、数多くのローンをプールしてリスク分散を図る。この場合に、不動産市況全般ではなくて、個々の借り手にバラバラに起こる経済的な事情が背景になったデフォルトは、一定の確率に収束することが期待できよう。不動産市場に大きな問題がない状態にあっては、多数の住宅ローンを組み込むことによるリスク分散効果が期待できる。

 しかし、デフォルトの原因が不動産市況全体に及ぶ低迷である場合、相互に独立な要因でデフォルトが起こる「平時」の場合のようには、デフォルトのリスク分散効果は働くまい。

 証券化商品の組成者たちが、どのようなモデルを使ったのかはわからないが、不動産価格全般の下落のケースを十分考慮した判断が行なわれていなかったのだろう。そして当事者たちにとっては、遠い将来はどうなっても、短期的に商売をつくることができれば、当面、成功報酬的な収入を得ることができるという誘因が存在した。

 株式のポートフォリオ運用の場合、分散投資で回避できるリスクと、株式市場全体の趨勢に影響されるので分散投資では低減できないリスクの2種類のリスクを区別することが多い。前者を「アンシステマティック・リスク」、後者を「システマティック・リスク」と呼ぶ。株式では、銘柄にもよるが一銘柄だけで見れば、東証一部上場のある程度時価総額があるものは、システマティックなリスクとアンシステマティックなリスクとが半々くらいの場合が多い。もちろん、分散投資で後者のリスクを低めに抑えることが一般的だ。

 この分類で考えると、サブプライムローンの証券化の初期に商品のリスクを考えた人は、住宅市況全般に起因するシステマティックなリスクを軽視したと言えそうだ。新銀行東京のビジネスと、サブプライムローンの証券化にあっては、共に他人のおカネを自分のために利用する人間の行動が、共通の構造的リスク要因になっていたように思える。