炭素繊維は、鉄に比べて強度が10倍、重量は4分の1というスーパー繊維。東レ、東邦テナックス(帝人グループ)、三菱レイヨンの日本勢で世界市場の7割以上を握る。特に東レはシェアトップに君臨。その収益力も折り紙付きだ。

 ところが、ここにきて「需給がだぶついている」(繊維メーカー首脳)との声が聞こえ始めた。

 実際、東レは、2009年3月期の炭素繊維複合材料事業の見通しで、売上高こそ前期比7.7%の伸びを見込むものの、営業利益は前期比22.6%減の140億円に、3番手の三菱レイヨンに至っては、今期の炭素繊維事業の営業利益を同71%減の32億円に落ち込む見通しを発表している。

 需給緩和には2つの理由がある。1つは、サブプライムローンの余波で、米国市場が冷え込み、ゴルフ用品などが影響を受けていることだ。もう1つは、東レが長期の部材独占供給契約を結んでいるボーイングの新型旅客機「787」の開発が遅れていることが挙げられる。

 もちろん、東レは、「需給が緩和しているのは量産品分野で、高付加価値の産業用途は依然として引き合いが強い。ボーイングに供給する予定だったぶんは産業用途に回している」(幹部)とあくまで強気の姿勢を崩さない。

 だが、業界内では「炭素繊維が余っているという印象がユーザーに広がると、値上げが通らなくなる。東レはなんとしてもそれを避けたいのでは」とうがった見方が強い。
 
 東レは先日、炭素繊維を使用した電波吸収パネルの開発を発表したが、この製品は工場などのICタグ読み取り機の誤作動防止や無線LAN、高速道路の自動料金収受システム(ETC)など、潜在市場が大きい。

 東レは「炭素繊維の用途拡大を狙って開発したわけではない」(幹部)と否定するが、「早く需給緩和状態を払拭したい東レの必死さの表れ」との指摘もある。

 ボーイング需要一巡後をにらみ、東レは炭素繊維の自動車用途の開発にも力を入れてきた。自動車に本格採用されるのは20年頃といわれ、量産技術開発を着々と進めているところだ。

 炭素繊維は競争力があり、将来性のある素材だけに、東レは、設備投資と研究開発投資を積極的に行なってきた。それだけに、用途開発を間断なく進め、価格の高値安定を死守したいところだ。最近の需給緩和が一時的なものにとどまるかどうか、東レの用途開発力が試されている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)