日本でもクラウドサービスの利用者の多いマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、アップルなど大手IT企業8社が、政府のインテリジェンス機関と極秘で協力しユーザーの電子メールや文書、写真、利用記録などの情報収集を大規模に行っているとされる「プリズム」。内部告発者によってその存在が明るみになって以来、オバマ政権を揺るがしその余波は指摘された各社に広がっている。プリズム問題の背景とその行方を、サイバーセキュリティに詳しい慶応義塾大学の土屋大洋教授(国際関係論、情報社会論)が解説する。

米国民へのスパイ活動を規制する外国情報監視法

 米国オバマ政権による大規模な情報収集プログラムであるプリズムが問題になっている。

 しかし、政権による通信傍受の是非という問題を理解するためには、ニクソン政権のウォーターゲート事件にまでさかのぼらなくてはならない。

 1972年に起きたウォーターゲート事件は、共和党のリチャード・ニクソン大統領が、中央情報局(CIA)に命じて、民主党の党本部などを盗聴させていたという問題である。第二次世界大戦を契機に作られたCIAは、米国外での情報収集・工作活動を行うものと考えられていたが、国内でスパイ活動を行っていたことが問題とされた。それも安全保障上の脅威に対するスパイ活動ではなく、政治的なスパイ活動であったことも問題とされた。

 ニクソン大統領は一連の疑惑の中で辞任するが、米国内でのインテリジェンス機関によるスパイ活動を禁じるために、連邦議会の上院議員だったフランク・チャーチ議員を中心に、1975年に委員会が組織され、この委員会の提言が、1978年の外国情報監視法(FISA)の成立につながった。

 FISAは、簡単に言えば、米国内でのスパイ活動について規定している。市民権または永住権を持つ米国人に対するスパイ活動を禁止しており、必要な場合は、FISCと呼ばれる特別な裁判所から令状をとることになっている。

 このFISA法案が議会で審議されているとき、米国のインテリジェンス機関を総括する中央情報長官であり、CIAの長官でもあったのが、ジョージ・H・W・ブッシュである(ただし、法案成立前に離任)。