上海の新興高級住宅地

 上海市長寧区の古北新区はおそらく改革・開放時代を迎えてからできた上海最初の高級住宅地と言えるだろうと思う。

 古北新区は市西部の虹橋路沿いに位置し、羽田空港と複数の直行便で結ばれる虹橋空港に近い。ハイレベルな住宅をメインに、商業や貿易の機能をも兼ね備えている。1980年代末から1990年初期にかけて建設設計を業務とする日本設計事務所といまや合併で名前の変ったゼネコンの青木建設が建設した太平洋飯店や世界貿易センター、さらに在上海日本総領事館なども、その古北新区のすぐそばにある。

 建設された多くのマンションやビルのなかには、ヨーロッパの建築士の設計によるものも少なくない。変化に富んだ外観、モニュメント・噴水・花壇・緑地・照明などで飾られた屋内庭園などはヨーロッパの風格を漂わせ、優雅でロマンティックなムードに満ちている。閑静で優美な新しい高級住宅地として、1995年には「90年代上海ベストテン新景観」の一つに選ばれている。

 古北新区に住んでいると上海の人に言えば、青山、白金台、広尾に住んでいる、と聞かされた東京人のように相手は目を見張る。

 古北新区は、多くの日本人や台湾人が住んでいるので日本人村または台湾人村とも呼ばれている。小区内を歩いていると、前や後ろを行く人々が日本語や英語、ドイツ語などを話しているのが聞こえる。南方訛りの共通語をしゃべっている台湾人にもよく出会う。国際的な雰囲気が色濃く漂っており、海外からきた人々は親近感を覚える。

 付近には日本料理屋やイタリアンレストランも多く、クリーニング店の看板にも日本語が書かれている。台湾人が好む「小吃(中華風スナック)」をメニューにしているレストランも多い。小区の中心に英語を常用語とするインターナショナル・スクールも建っている。入口の横にあるカルフールは、220店舗前後ある同社の中国店舗の中で売り上げが一位という地位を誇っている。

 古北新区が持っているリッチかつ開放的な雰囲気は、それを求めている海外から来た多くの人を虜にした。私もそのなかの一人だ。古北にある優雅な喫茶店でウィンナーコーヒーを啜りながら、ここに自分の家もほしいものだと思った。