「もし私が国民に変動金利モーゲージ(ARM)を使うよう勧めたことが有罪なら、禁固30日の罪だろう」。

 グリーンスパン前FRB議長は「ワシントンポスト」(2008年3月21日付)のインタビューでそう語った。かつて「マエストロ」と称賛された同氏だが、サブプライム危機が拡大するにつれ、彼の金融政策に対する批判が高まっている。世論は移り気だ。特に彼が2004年2月に、ARMを使えば利払いの節約になると発言した部分は、マスメディアの格好の攻撃対象となっている。彼のお墨付きが、後の悪質業者の跋扈につながったという論法である。

 それに対する反論が冒頭のグリーンスパン氏のコメントだ。たいした罪じゃないよ、というニュアンスである。彼は2004年3月の講演で30年固定金利モーゲージの有効性に言及していた。ARMを推奨した2月の発言から1ヵ月もたたぬうちに修正していたので、罪は軽いという釈明である。しかしながら、ブラインダー・プリンストン大学教授(元FRB副議長)は、彼が金融業の監督に興味を示さず、モーゲージ業者検査の提案に耳を貸さなかった点は問題だったと批判している(前掲紙)。

 折しも、2008年3月31日にポールソン財務長官は、金融システム監督の抜本的なリフォーム案を発表した。FRBの監督権限を強化し、証券会社も検査できるようにするという。しかし、それに対して金融業界団体から反対ののろしがいっせいに上がっている。米国の金融監督システムはパッチワークのようにつぎはぎだらけだが、そこに複雑な利害が絡んでいる。

 「ニューヨークタイムズ」(2008年4月1日付)は、金融業界の意をくんだ議員やロビイストによって同案は即座に廃案に追い込まれるだろうと報じている。上院銀行委員会のドッド委員長(民主党)は、「これはワイルドピッチだ。ストライクゾーンに近づいてすらいない」と酷評している。

 また、「ワシントンポスト」(2008年4月1日付)は、「ポールソン案でFRBは重要な力を失う」と報じている。新たな案の下では、FRBは、銀行、証券会社、ヘッジファンドなどが生み出す金融システムリスクの監督という漫然とした権限を得る。しかし銀行の財務状態を日々モニタリングする権限は失うという。ニューヨーク連銀の元高官は「FRBにとってこれはひどい取引だ」と憤慨している。

 仮にポールソン案をきっかけに、財務省とFedの関係が悪化するようなことがあれば、今後の金融救済策の進展にとってネガティブな不安材料となりうるだけに、先行きの展開に注意が必要である。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)