幼児は英単語も日本語も全部、聞き分けている

前回、子どもたちは言語習得にあたって、まず名詞(特に一般名詞)から憶え始めるという話をしました。次に動詞、最後に形容詞に進むわけですが、形容詞は相対的な表現であるがゆえに、その理解・習得がとても難しいことを説明しました。その難しさは大人になっても本質的には変わりがなく、「強い」「高い」などの形容詞的表現はアイマイにすぎるので、なるべく定量化しようと(マイケル・ポーターの『競争の戦略』なども引き合いに出しながら)書きました。

 幼児の言語習得研究は、ほかにもいろいろなことを教えてくれます。たとえば「音素の理解」もその1つです。

 発声された言葉を、ヒトは音素の組合せとして理解します。大きくは母音と子音に分かれ、言語ごとに多くの違いがあります。英語では区別する「l音」と「r音」を日本語では区別しません(*1)。区別しないだけでなく、多くの大人は聞き分けることすらできません。

 でも実は、生後10ヵ月までの赤ちゃんには、その区別ができるのです。race(民族)とlace(編物のレース)を間違いなく、聞き分けます。see(見る)とshe(彼女)、free(自由)とflea(ノミ)も、大丈夫。しかし、そんな貴重な能力も、1歳頃にはなくなってしまいます。そう、ちょうど喋り始める頃には。

*1 日本語では昔、「じ」と「ぢ」の発音を分けていた。今でも、高知の年配者は聞き分け、喋り分けられるという。地面(じめん)は「ぢ」で、事件(じけん)は「じ」である。