私は、1999年9月15日、敬老の日の朝日新聞に「スマートシニアと新市場」という論説を発表し、次のように述べました。

 ネット先進国のアメリカでは、シニアのネット人口が1300万人(ネット人口の16パーセント)に上る。そして、ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動をとる先進的な「スマートシニア」が増加している。

 このスマートシニアは、

・日に一度、毎週10時間以上ネットを使う
・若い世代よりネット通販に積極的である
・市場で自分の声を積極的に発信する

という特徴がアメリカでの調査でわかっている。

 わが国でもこのようなスマートシニアが増えている。今後、このスマートシニアは先駆的な消費者として多数の一般シニアの消費行動に影響を与え、アクティブシニア市場をリードしていくと推察される。

 この小論は、9年前のもので、内容は、いまにしてみれば稚拙なものですが、その時点での予感を述べたものでした。

 それから9年経ったいま、現実はどうなったでしょうか。

 たとえば、何か商品を購入する場合は、ブロードバンド環境に接続されたパソコンで、「価格ドットコム」のような価格比較サイトを使い、探している商品の仕様と価格とを比較して、自分の求めている条件に合うものを購入して楽しむ。また、いくつかの旅行サイトを使ってお気に入りの旅行商品を選択し、自分の条件に最も合うものを購入し、旅行に行く。あるいは、ネット上での多くの経済情報をもとに、ネット証券サイトで株の投資を自在に行なう。

 このような「賢い消費者」としてのスマートシニアは、確実に増えたと思います。

 スマートシニアが増えていくというのは、単にネットや携帯電話などのIT機器を活用して情報収集するシニアが増えていくということではありません。IT機器を活用して情報収集力が高まった人が増えると、そうした人たちが先駆的な消費者として多数の一般シニアの消費行動に影響を与えていきます。その結果、IT機器を使わない人たちでも、商品に対する情報感度が高まり、いままで以上に情報収集に注力するようになるのです。

 つまり、「賢い年配の消費者=スマートシニア」が、どんどん増えているのです。そして、重要なことは、こうしたスマートシニアは、今後ますます増えていくということです。

 なぜなら、現時点の60代以上の人たちよりも、さらに情報を使いこなす能力の高い団塊世代を中心とした次の世代が、シニア層への仲間入りをするからです。21世紀は、スマートシニアの時代を迎えるのです。

 では、スマートシニアの時代において、商品やサービスの提供者である企業は、どうならなければいけないのでしょうか。その答えは、「企業は、ますます賢くなる消費者よりも、さらに賢くならなければいけない」ということです。