3Dプリンタが持つ真のインパクト――それは製造業だけではなく、教育・社会・暮らし・働き方・生き方・生きがいといった普通の人々の未来にもたらすインパクト――を、「ファブラボ(Fablab)」の実践を通して語る好評記事第3回。
情報だけに浸るウェブ社会から、物質を扱う「ファブ社会」への変化を説く田中浩也氏が前回「最も重要」だと語ったのは、「文字」だけではなく「もの」を読むためのリテラシーと、それを高めるために必要な「ティンカリング=いじくること」の精神。それを受けて今回は、「自分が必要とするものを自分でつくるのに必要な最低限の技術」を身に付けた人々が、次には地域やまちへどんな実践を広げていくのかに迫る。

ガレージカルチャーをいかに生み出すか?
日本から「21世紀の発明家」を生み出すために

 諸外国に行くと、一軒家にガレージや屋根裏部屋があって、そこが「図工室」として使われている様子をよく見る。私たちが小・中学校のとき、「図工(技術)」と「家庭科」の授業を受けたものだが、それに対応するかたちで、家の中にガレージや屋根裏部屋(=図工に相当)と、キッチン(=家庭科に相当)の2つのスペースが設けられているのである。

 ガレージでは、自転車や自動車の修理をはじめ、家や庭のメンテナンス、壊れた機械をいじくることによる発明などが生活の一部として行われている。スティーブ・ジョブスやクリス・アンダーソンの実践は、こうした日常の中から育まれたものであろう。生活と仕事、遊びと学びが橋渡しされるのがこうした場所なのである。こうした文化においては、「ものづくり」は“何かのため”という以前に、生活の基底に当たり前に組み込まれているものなのである。

 翻って、日本はどうだろう。田舎へ行くと納屋や土間などがまだ存在する場所もあるが、都市部のマンションなどでは、一般的に、キッチンはあるがガレージはほとんど備わっていない。つまり、家庭科の実践はあっても図工の実践は乏しい。騒音や粉塵の出る作業は基本的に禁じられている。この住環境が、「ものを読む」ことを私たちの生活から遠ざけてきた一因なのかもしれない。

 しかしよく考えてみれば、だからこそ21世紀の図書館としての「ファブラボ」は、日本の状況下でうまく機能するアイデアなのである。これからマンションや各家庭にガレージや屋根裏部屋を増設するのは非現実的かもしれないが、地域に一つ共同の工房をつくることは現実味があるからだ。その場所は、必然的に地域コミュニティを復活させることにも寄与するだろう