エバーノートが、「デジタル」と「フィジカル」の合体を加速化させている。

 デジタルとフィジカルというのは、インターネットやスクリーン上で操作するデータと、物理的なわれわれの世界に存在するモノとのこと。「リアルとバーチャル」、「ビットとタンジブル」、「デジタルとアナログ」という言い方も同じだ。それらが相互乗り入れできるような融合戦略を促進しているのだ。

 同社は昨年、イタリアの有名なノートのメーカーであるモレスキンとの提携を発表している。モレスキンは、イタリアの職人技が感じられるような美しい製本技術で作られたノートシリーズを発売している。

 エバーノートとの提携は、モレスキンのノートにメモを書き込んだり絵を描いたりして、それを写真に撮ると、ページがエバーノートにデータとして保存され、必要になれば手書き文字認識によって後から検索することもできるというしくみだ。この特製ノートに付いてくる分類シールを貼っておけば、データが取り込まれる際に自動的に分類も行ってくれる。

 まことに不思議な感覚だが、手を使って書いていたものがデータとして保存されるというのは、実に便利だ。

 同社は先頃、同じように付箋紙のポスト・イットを写真に収めて分類するというアプリケーションを発表した。これも、ポスト・イットに書き込んだメモを写真に撮ると、それがデータとして保存されて、後から引き出し可能という仕組み。ポスト・イットの色を分類に利用すれば、自動的にメモがしかるべきところに整理される。後で、その分類に収められているメモを、他のノートなどと一緒に呼び出したいということになれば、それも一気に概覧できる。

「すべてがデジタルになる」は
テクノロジー企業の傲慢か

 ノートやポスト・イットは、われわれが日常的に用いているツールである。だが、コンピュータをどんどん利用し始めるようになってからは、デジタルに保存しているものとリアルな世界で作成したものとは、ふたつの別の世界に属して永劫に交わることはないと思ってきた。しかし、エバーノートのこの仕組みは、フィジカルに生み出されるものもデジタルのデータと同じように扱うことを可能にしてくれるというわけだ。ただの画像でなく、文字データとして引き出せるところがミソだ。

 最近はストレージサービスも出てきて、一般消費者向けであってもデジタルデータ関連の機能やサービスが向上している。そのため、ユーザーとしては、メモを取るのも絵を書くのも何でもデジタルにやらなければ不便、不利になると痛感していたはずだ。だから、会社のミーティングでもコンピュータやタブレットを持ち出して、苦労してメモを取ったりしていたわけだが、こうした融合策があればそんな苦労は不要になる。

 エバーノートCEOのフィル・リービン氏は、「すべてがデジタルになると謳ってきたのは、テクノロジー企業の傲慢」と説明する。一般の人々の生活では、まだまだリアルの世界で多くのことが行われているというのだ。