高級家具大手の株式会社カッシーナ・イクスシー(以下、カッシーナ社)は、2007年12月期に103億円あった売上高が僅か4年の間に半減し、2010年12月期には3期連続で経常赤字を記録するという深刻な経営不振の状態に陥っていた。2010年末に同社の再建を託されたのが日本では数少ない「プロの経営者」の一人である森康洋氏。森氏は万年赤字体質のカッシーナ社をたった1年で黒字化し、借入金を半減させることに成功。そんな同氏が会計やファイナンスをどう活用しながらカッシーナ社の再建を果たしたのか、『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』の著者が迫った。

定量化して初めて「あ、数字って面白いもんだなぁ」と気づく

田中 会社のキャッシュを増やすことを目的とするファイナンス戦略のために会計を使ってもらおうという発想で今回の本を書いたのですが、事業会社で働いている人たちは、会計やファイナンスというものをどのくらい理解しているものでしょうか?

会社の状況への無関心が赤字を招く!<br />社員の職位別に理解してもらいたい会計情報がある森 康洋(もり やすひろ)
株式会社カッシーナ・イクスシー 代表取締役社長執行役員 1955年7月15日生 慶応大学法学部卒業 株式会社レナウンで米国法人社長、本社執行役員を務めた後、株式会社アクタス代表取締役社長、株式会社グレープストーン常務取締役を経て、2010年11月、株式会社カッシーナ・イクスシー執行役員副社長に就任、2011年3月より現職。慶応大学では体育会ラグビー部で活躍。

 どうでしょうか。我々みたいな事業会社に入ると、経理部にでも配属されない限り数字を追うということはほとんどないんですね。本当はそんなことではダメなんですが、日本の会社では、はじめに営業のスキルや商品知識のことを勉強する一方、財務の視点で会社を見るという習慣がまずありません。

田中 経営陣ではどうですか?

 ところが経営層に近づくほど、ファイナンスや会計という世界が世の中にあると知って、みんな慌てて「どういうことなの?」と、なるんじゃないでしょうか。

田中 一般的にはそうですよね。

 あくまでも財務諸表というのは、その会社がどういう健康状態にあるかという指標。事業の結果を表すものです。そして「ROEがこうだよね。だから、あそこを改善しよう」と解釈します。ただ、どうしても事業戦略に企業は力を入れることになります。

田中 ファイナンスというのは事業戦略があっての戦略ですから、それでいいと思うんです。我々の本は、まさに財務指標を事業戦略やファイナンス戦略にフィードバックさせよう、というコンセプトで書いているのですが…

 みんなが知らないエリアだから、読んでみると「あ、面白いよね」ってなるんだと思いますよ。

田中 そのあたりをもう少し具体的に教えていただけますか。

 基本的に現場で働いている人たちの興味は営業とか目の前の実務にあるんです。ところが、定量化して初めてわかることがたくさんあるわけですよ。みんな一生懸命やっても、定量化してみると、「え?こんな無駄なことをしていたのか」といった具合に。そうなってくると、あ、数字って面白いもんだなあ、と気がつき始めるんじゃないでしょうか。

田中 定量化して面白いと感じたり、いろんなことに気づくのは、森さんは、いつからそうなったんですか?

 定量化というと、田中さんもそうかもしれないけど、ラグビーの練習で3周走を何分で走るとかやりますよね。そうすると、その数字を超えるために何をしなければいけないのか?と考えるようになります。

田中 すみません。私は凡人なので、3周走のときにそんなことは考えていませんでした(笑)。

 私は新卒でレナウンに入社してからずっと営業でしたから、自分が担当している百貨店で売上が予算を達成できるかとか、対前年でどれだけ増えているかとか、そういうことだけには興味を持っていたものです。そのときには会社のキャッシュフローや財務諸表がどうなっているかなど意識したことはまったくありませんでした。

田中 普通のビジネスパーソンは、マーケティングなどの事業戦略にまず取り組みますからね。

 ですから、定性的なもののほうが圧倒的にビジネスの主なんですよね。私は30歳を過ぎてから商品企画を行うMD(マーチャンダイジング)部門へ移ったから、原価率とか粗利率とか初めて考えるようになりました。洋服の場合、生地代、ボタン、ファスナーという材料費、縫製賃とか、一個一個のコストが積み重なっていることを勉強しました。そういうコスト構造を勉強すると、では、これはいくらで売って、どれくらいの粗利を取るのが適正なのだろうとか考えるようになりますよね。すると、定性的な仕事をしながらも数値化をいつも考えるようになるものです。

田中 森さんの場合、経営者として必要なファイナンスのスキルを意識して学んだというより、経験を通じて自然に身に付けたという印象を受けます。

 まさに、そのとおりですね。

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