需給ギャップという視点

 安倍内閣の経済政策における当面の最大の目標は、デフレ脱却である。これを実現しないことには、経済再生も財政再建もおぼつかない。そうした思いで、大胆な金融緩和策や機動的な財政刺激策を行ってきた。

 ただ、金融政策や財政政策だけで経済の持続的な拡大を実現するのが難しいことは明らかだ。金融政策はデフレ脱却のための強力なカンフル剤とはなっても、それで経済が拡大を続けるというものではない。

 経済が持続的に成長を続けるためには、日本の潜在成長力を高めていく必要がある。規制緩和や市場開放を進めていくことが求められている。これによってサプライサイドからの成長力が高まっていき、日本は持続的な成長を続けられるのだ。

 サプライサイドからの成長力を上げていくことは、物価や賃金の動きとも深い関係を持っている。財政政策や金融政策といったディマンドサイドからの経済刺激は、需要を拡大し、物価や賃金を上昇させるうえでは有効かもしれない。しかし、サプライサイドでの生産力拡大がないまま需要ばかりを刺激すれば、生産や実質所得などは増えないのに物価や名目賃金だけが上がる悪い物価上昇になりかねない。

 中長期的に物価や賃金が2%程度の安定的なスピードで上昇を続けると同時に、実質所得や生産が安定的に拡大していくためには、ディマンドサイドとサプライサイド両面からの持続的拡大が必要となる。

「民間投資を喚起する」ことの意味

 ここで、「民間投資を喚起する」という、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」に付加されている表現が重要となる。長期的にはサプライサイドとディマンドサイドの両方が重要だとしても、当面はどうなのかという問題だ。

 マクロ経済の基本的な考え方によれば、物価の動向はマクロ経済全体の需要と供給の動きに大きな影響を受ける。需要が供給を上回っていれば、物価は上昇傾向となる。需要が供給よりも少なければ物価上昇圧力は弱まるし、場合によっては物価下落という事態になる。