環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が、年内妥結に向けてあわただしい動きを見せている。

 新聞報道では、農業分野での関税を巡ってアメリカと日本の要求が対立するなど、交渉が難航している様子が断片的に伝えられている。

 だが、その全貌はいまだ明らかになっていない。参加国には交渉内容を公表しないことが義務づけられており、これまで交渉は秘密裡に進められてきた。そのため、TPPを巡っては、さまざまな憶測が飛び交ってきた。

 TPPの交渉は、関税撤廃だけにとどまらず、薬の特許期間、著作権の保護問題、外国企業による国家の提訴(ISDS条項)など、私たちの暮らしを根底から変える可能性のある項目も含まれている。そのため、筆者も、日本の医療への影響として、2011年の年明け最初の本コラム第20回で独自の未来予測を行い、健康保険が空洞化する危険性を指摘した。

 だが、この間に目にしてきた「TPPに参加すれば、混合診療が全面解禁され、国民皆保険が崩壊する」という最悪の事態を煽る報道には、いささかの疑念を持っている。

 TPPが発効すると、本当に混合診療は全面解禁されてしまうのか。年内妥結が報じられる今、冷静にその可能性を検証してみたい。

オバマ政権以降に強まった
アメリカの市場開放要求

 日本では、健康保険が適用された「保険診療」と、保険適用前の「自由診療」を並行して使うことを原則的に禁止している。いわゆる「混合診療の禁止」と呼ばれるものだが、なぜ、こうした措置が取られているのか。

 国民皆保険の日本では、職業や年齢に応じて誰もが何らかの公的な医療保険に加入しており、病気やケガの治療をするときは健康保険から給付を受ける。