不動産販売業のA社に突如、退職した元営業社員のCさんが労働基準監督官を伴ってやって来ました。社長のBさんはただ驚くばかり。そんなB社長に監督官は、Cさんに“未払い”の残業代500万円の支払いを命じます。B社長は「残業代は支払った」と主張しますが、結局は却下され、Cさんに500万円を支払うことになりました。いったいなぜ、こうなってしまったのでしょうか……?

実質労働時間がわからないから
「営業手当」を支給

 A社が「残業代を支払った」と主張したのは次の根拠からでした。

 「営業社員は、朝はお客様へ直行が多いし、夜も遅くまでお客様と折衝後そのまま帰宅する、あるいはお客様の接待などで労働時間がよくわからないから『営業手当』を支給して残業代としています」

 A社のような発想で、現在支給している手当をいわゆる「定額残業代」として、残業代を前払いしていると認識している経営者も多くいらっしゃいます。しかし、ここに意外な落とし穴があります。

 労働基準監督官は臨検の際、必ず賃金規程を確認します。そこには、営業手当に関し、「営業社員に対し支給する手当であり、勤続年数別、能力別に金額を決めます」などといった記載がなされているケースをよく見受けます。しかしこの条文を見た監督官は、間違いなくこう言います。

 「営業手当は残業代とはまったく異なります。残業代不払いの状態です」

 このようなA社のケースのみならず、「基本給に残業代を含んでいる」「当社は年俸制を採用していて、残業代を含めた賃金を支給している」などの主張も、監督官から残業代不払いの指摘を受けます。

「残業代不払い」と
いわれない賃金規程とは

 A社のように残業代不払いを防止すべく、諸手当を残業代の前払いとしていたにも関わらず「不払い」とされてしまっては、経営者としてはやり切れない気持ちになるでしょう。