前回は、役職定年前後の時期に問題化する人材のタイプのうち、『現役に固執する人材』の実態とその人たちをどのように活用すればよいかを見てきた。今回は、定年まで無難に逃げ切ることだけを考えている『定年前にOB化する人材』について見ていきたい。なぜ50代社員が役職定年とともに心の張りを失い、会社の濡れ落ち葉のようになるのか、一緒にその対策も考えたいと思う。

 大手企業の役職定年は、早いところで課長52歳・部長54歳、遅いところで課長56歳・部長58歳あたりだ。60歳の1次定年まで2年から8年が残っている。望ましい働き方は役職定年までは、管理者として最大の働きをし、ファーストキャリアの集大成を行い、役職定年を迎えたら、後輩にその襷(たすき)を渡す。そして肩書き返上後は、一線の管理職から退き今度はベテランプレーヤーとして、新たに与えられた仕事で組織を支え、定年まで頑張る。これが企業の求める働き方だ。

 表面上は多くの管理者がこの役職定年の“しきたり”に従っているかのように見える。だが、この早い管理職定年を嬉しく思う管理職はいない。当然さまざまな、働き方が現れることになる。頑張ってもそれ以上職位が上がることはなく、その先は自動的に役職定年となる。やってもやらなくても結果は同じことか…。『定年前OB化』の原因は、キャリアの天井感と同時に、将来目標の喪失感が、「心の定年」を意識させることから始まる。役割の終わりが近づいてきたが、次に期待されること、やりたいことが見えないなかで、心の内に現実役割逃避が起きる。

「定年前OB化社員」の実態を理解しよう

 『定年前OB化』人材になるタイプの方は、前回の『現役固執型』と対比すると、管理者としての器はやや小さい。改革・革新的な仕事実績を上げてきた方ではなく、与えられた職務目標を着実にこなす組織維持型の管理者に多い。一生懸命努力して得た管理職だけに、ポストに対する意識・執着も強い。

 しかし、キチンとした管理が得意な組織人だが、役職定年などの時期が訪れ、もはやこれ以上の評価も昇進もないとなると、仕事に対する責任感・情熱が一気に失われ、役定・定年まで相当の時期があるのに、明日定年を迎えるかのような人に変わっていく。

 その原因としてこのタイプの方は、卓越した管理者能力や事業意欲を持っているわけではなく、管理者の権限を拠り所として、組織の業務管理を行い、評価を受けることを動機付けとしている。それが、習い性になっているため、役職定年などで、権威・評価が低下すると、後ろ盾を失った感覚と同時に、それまで張り詰めていた目標達成感覚が薄れ始め、安易な働き方に陥ってしまう。

 まず、事例をひとつご紹介しておこう。