ハーバード、マッキンゼー、INSEAD(欧州経営大学院)、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)と、日本・アメリカ・ヨーロッパとわたり歩いてきた京都大学教授の河合江理子氏。そして、東京銀行、オックスフォード大学、マッキンゼーと、同じく国際的なキャリアを歩んできた早稲田大学大学院教授の川本裕子氏。日本を知り、世界を知る2人が語る、これから必要とされる人材とは。河合氏と川本氏による対談の最終回。

大学に期待しない日本の企業への疑問

河合 アメリカの学生は、履歴書にGPA(Grade Point Average)を書きますよね。例えば、「4」が日本でいう「A」や「優」ですが、3.5以上なければ希望の会社には就職できません。

 なぜ、アメリカの学生があれほど必死に勉強するのかを考えると、もちろん、高い授業料を払っていることもあると思いますが、いい成績を取れなければやりたいことができないという環境もあると思います。一方、日本では、まだまだ大学での成績があまり評価されず、クラブ活動やアルバイトが評価されます。なぜ、学問的に優秀な学生を採ろうと思わないのかと不思議になります

特別対談 <br />恵まれた環境で才能を持て余す若者たち <br />楽しみながら、積極的に世界へ飛び出す<br />【早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授・川本裕子×京都大学国際高等教育院教授・河合江理子】川本裕子(かわもと・ゆうこ)
[早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]
東京大学文学部社会心理学科卒業。英オックスフォード大学大学院経済学修士修了。東京銀行を経て、1988年マッキンゼー東京支社入社。パリ勤務を経て、2001年シニアエクスパート。2004年から現職。三菱UFJフィナンシャルグループ及び日本取引所社外取締役、東京海上ホールディング社外監査役、トムソンロイタートラスティディレクターを兼務。これまでに金融審議会委員、道路公団民営化推進委員会委員、金融庁顧問、総務省参与(年金記録問題検証委員会委員)、行政刷新会議事業仕分けメンバー、内閣官房宇宙開発戦略専門調査会委員、統計委員会委員などの政府委員やヤマハ発動機、マネックスグループの社外取締役を務めてきた。
著書に『銀行収益革命』(東洋経済新報社)、『金融サービスのイノベーションと倫理』(共著、中央経済社)、『親子読書のすすめ』(日経BP社)など。

川本 それはとても本質的な話です。結局、企業が大学教育にほとんど期待してないということがあると思います。もちろん、大学に期待してもらうためには、大学教育のあり方、すなわち学位認定にもっと厳しさがなくてはいけなくて、それには大きな改革が必要ですが。

河合 そうですね、期待してないと思います。

川本 大学教育に期待してないことの証左は、3年生で就職活動することです。2年生までのパフォーマンスしか評価の対象にならない。企業の1年間で例えれば、半期終わったところで1年分の評価を決めているのと同じことですよ。

河合 拙速だと思います。

川本 企業の問題に踏み込めば、大量採用時代、大量処理時代の名残りから、いまでも新卒一括採用をしていますよね。大企業の場合、生涯賃金2~3億円とか言われていますが、100人、200人と採用すると、数百億円の投資をいきなり決めていることになります。さらに、簡単に解雇できる環境でもありません。人事戦略が丁寧ではないように思います。

 きちんと評価して、1人ひとりの成長に従って対応するというきめ細かい人事は時間も手間もかかりますが、人事部一括ではなく、事業部単位での採用ということもその解決策になるかもしれません。

河合 企業側が、大学の授業にあまり期待してないこともあって、つまらない授業を受けているよりも、幅広い活動を通して大人になってほしいという企業があるのかもしれません。ただ、それだったら大学に行く必要ないでしょうと思ってしまいます。働いていたほうがよっぽどいい経験ですよね。

川本 そうなの、4年間がもったいない。

河合 授業を聞かない学生が来ても、先生のモチベーションも下がります。授業に遅れる、おしゃべりするというのは、ちょっとおかしいと思いますよ。もちろん、とても真面目な人たちがたくさんいますが。

企業側の、大学の成績に対する評価の方法が変われば大学生はもっと勉強するようになるでしょう。結局、学生はいい条件の就職を目指して行動しますので。