何事を成すにも、基本をしっかりと押さえておくことは極めて重要です。

 でも、基本に忠実なだけでは面白みがありません。

 美は乱調にあり、ともいうわけですから。

 例えば、天才ピカソ。最高の基礎技量を備えています。白い紙に一本の線を描くだけで、立体に見えるマリアの横顔を浮かび上がらせた習作もあります。その彼が、やがて、心の眼に映ったものを常識を破る直感と計算に立脚して描くキュビズムを主導します。スペイン内戦の殺戮を告発する「ゲルニカ」をはじめ強烈な印象を与えます。

 要するに端正なだけでは感動は生まれません。一見上手に見えないのに妙に心に残るものがあります。

 ヘタウマ的な概念の根底にあるものです。

 ピカソを元祖ヘタウマと呼べば、お叱りを受けるでしょうか?

 しかし、ヘタウマの正体は、最高水準の技量に立脚した直感と個性です。

【二ール・ヤング「ハーヴェスト」】<br />ヘタウマ的な要素を内包した歌と演奏の輝き

 と、いうわけで、今週の音盤は二ール・ヤング「ハーヴェスト」(写真)です。

26歳で創った最高傑作

「ハーヴェスト」は、二ール・ヤングの第4番目のソロアルバムです。1972年の聖バレンタイン・デイ(2月14日)に発表されました。1945年生まれの二ール・ヤングは今年69歳、音楽家としてのキャリアは優に40年を越え、発表したアルバムは40枚以上になります。それでも、弱冠26歳で発表したこの「ハーヴェスト」こそ、彼の最高傑作だと断言します(トリビアですが、ビートルズ最高傑作「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を発表した時のジョン・レノンも26歳でしたね)。

 では「ハーヴェスト」の何がそんなに素晴らしいのでしょうか? 

 収録されている10曲すべてが高水準の楽曲で、捨て曲は無しです。

 でも、この音盤を象徴する曲をひとつ選ぶとすれば、それは“孤独の旅路(Heart of Gold)”に尽きます。