前回第7回では、50代シニアが役職定年(役定)前後に遭遇するキャリアショックを乗り切るための処方箋について述べてみた。50代社員は、役定になっても会社の良き人材として活躍したいが、そんな期待も場所もない。企業としては、仕事意欲を失わず若い人のモデルとなるような働き方をしてほしい期待はあるが、現実の仕事や処遇は格段に落とさざるをえない。

 企業とシニアのこんなタテマエとホンネが交錯するこの世代特有の現象を経営者・人事担当者はもっと理解しておくべきだろう。そこで今回は、50代シニアがキャリアショックを乗り越え、シニア社員として望ましい働き方に導く支援の視点と、その課題について考えてみたい。論考の所どころで、目下、日本マンパワーの「ミドル・シニアのキャリア問題研究会」で座長を務めている田中丈夫氏の主張を引用させていただいたことをお断りしておく。

「残りあと5年か…オレもそろそろ自由になりたいな」
50代シニアの青い鳥症候群

◇A社55歳役職定年者研修の風景
=定年後本当は何をしたいのか、半数以上の人はわからない

 筆者は、企業の役職定年者向けキャリアデザイン研修を、毎年、数社手掛けている。最近、実施したA社55歳役職定年者研修の風景を紹介しておこう。来年56歳で部長の役定になる20名程の方が対象となる研修だ。

 研修は2日間、事前に、キャリアの振り返りシートを作成してもらい、1日目は過去の経験・能力の強み、今後も役に立ちそうなスキルの点検。2日目は、これまでの仕事価値観、新しい職場で自分を活かす際の課題確認などをやる。ここまでは、ほとんどの方が活発に語り合いながらワークや討議を楽しむ。だが、最後にくるキャリアビジョンが描けない。

 今後定年までの4、5年、そして定年後再雇用の65歳までの5年、その先70歳くらいまでどんな生き方・働き方をしたいか、将来の自己活躍イメージをまとめてもらうシートだ。だが、企業の施策をよく理解し、役割変化後の仕事・貢献テーマ、あらたな働き甲斐など地に足の着いた、キャリアビジョンを描ける人は3割くらいしかいない。

 仕事は自分で選べない、先のことは退職したらその時考える。自分に何ができるのか、本当は何がしたいのかはよくわからない。自分の経験をどう活かすか、それは自分が選ぶものではなく、企業が与えるものとの意識だ。退職後をどう生きるか、早めに田舎に帰る、社会人大学院に行く、親の介護に専念するなど、一部の目的ある方を除くと、大半の方は、「再雇用」で会社のあてがってくれる仕事でお世話になるつもりだ。