2014年3月期にトヨタ自動車やホンダを上回る営業利益率12%超えとなる富士重工業。「安心と愉しさ」に関わる技術、米国に経営資源を集中投下し、わが世の春を謳歌している。販売台数100万台が射程圏内に入った富士重に死角はあるのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

 2010年に富士重工業が衝突安全システム「アイサイト」を開発して間もなく、欧州を訪れていた技術担当の平川良夫・常務執行役員は肝をつぶした。

 渡欧の目的は、独ボッシュや独コンチネンタルといったメガサプライヤー(巨大部品メーカー)が製造する競合製品の実力を知ることだ。「うちはアイサイトで負けるわけにはいかない。経費は気にしなくていいから、敵陣を知るのは大事」と、吉永泰之社長に背中を押されたのだ。

 富士重は、燃費・価格一辺倒の競争とは距離を置き、強みである「安心と愉しさ」に関わる技術への投資を惜しまなかった。アイサイトは、安心の技術の代表格だ。

 しかし、平川常務を迎え入れたあるサプライヤー担当者は、衝撃的な数字を口にした。「5年後には、スバルと同様のシステムが2万5000円で売られるようになる」。“ぶつからない車”で大ヒットしたアイサイトの原価は10万円。追随した競合製品の価格が4分の1となる将来予測を見せつけられ、平川常務はがくぜんとしたのだ。

 最近、平川常務はあるサプライヤーにこう宣言されたという。「スバルは顧客であると同時に、コンペティター(競合)でもある。アイサイト搭載レガシィをベンチマークにしている」。

 だが、こうした宣戦布告にも、「他社が追随しなければ独りよがりの“ガラパゴス技術”で終わってしまう。いかに先頭を走り続けられるか、ワクワク、ドキドキしている」(平川常務)とあたかも熾烈な開発競争を楽しんでいるかのようだ。

 吉永社長もまた、「企業間の戦いでは、ひるまないほうが絶対に勝つ」と強気な姿勢を崩さない。価格競争、開発競争の荒波にもまれながらも、明らかに富士重は自信を取り戻している。