「海外進出を成功させるには“現地化”が大切」とよく言われます。しかし、その「現地化」の意味を本当に理解し、現地法人で実行できている日系企業や日本人駐在者は少ないように思われます。では、どうすれば「本物の現地化」が実現できるのでしょうか?

 今回は、実際に中国での法人設立から現地化までの一連の流れを経験した方にお話を伺いました。人材紹介業を中心に展開する、リクルートのアジア現地法人RGF HR Agent Groupマネージングディレクターの舘康人さん(35歳)です。

中国と日本では「営業」の意味が違う?
“リクルート式”を伝えるための苦悩

名ばかり現地化と本物の現地化、何が明暗を分けるか舘康人(たち・やすと)
RGF HR Agent Groupマネージングディレクター。2002年に慶応義塾大学を卒業し、リクルート入社。経営企画部などを経て06年10月、上海支社の設立に参画。13年4月から現職。アジア地域を統括する。

 リクルートで人事部や経営企画部などを経験し、まだ28歳だった2006年10月に上海へ行き、現地法人の立ち上げに参画。その後、09年にはRGF HR Agent Chinaの董事長兼総経理、13年4月からはアジア全体を統括する現在の立場になった舘さん。

 06年10月の上海支社設立の際は、中国語も全くわからない状況で同僚と2人だけで現地に乗り込んだそうですが、現在はアジア全域で13都市、300人の社員を抱えるまでになりました。

 こうお伝えすると、とても順調にここまで来たように見えますが、中国人との価値観の相違などからリクルートのビジネスを理解してもらうのにとても苦労したそうです。

「最初の1年間は悪戦苦闘でした。例えば、中国人の多くは、“営業”と聞くと、販売をイメージしてしまいます。ですから、リクルートの“営業”を理解してもらうために、わかりやすく言語化、KPI(重要業績評価指標)化して、十数回も説明会を行いました」(舘さん)

 ジェトロが同法人のサービスを利用したことのある日本企業6531社に対して行った調査(『2012年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2013年3月)』によると、49.9%の企業が既に海外拠点を持ち、64.3%の企業が今後3年程度で海外での事業展開・拡大を志向しているといいます。

 こうして海外拠点を持つことになれば、同時に現地スタッフの採用・マネジメントはもちろん、優秀な人材が流出しない方法も模索しなければなりません。しかし、実態はどうでしょうか。

 リクルートマネジメントソリューションズが行った調査(『グローバル人材マネジメント実態調査2011』)によると、中国を海外最重要拠点と位置付ける96社では、「ローカル優秀人材のリテンション(定着)」に対し、「取り組んでおり、うまくいっている」と答えた企業はわずか12社。「取り組んでいるが、うまくいっていない」と答えた企業は46社にも上っています。それほど現地の優秀な社員を自社に定着させるのは、難しいことなのです。