前回は、「エクイテイ・デカップリング」というヘッジ・ファンドが得意とする投資行動が、従来の株主(の議決権行使)の概念を覆し、会社法の根幹までを揺さぶっている現状を紹介した。

 簡単に要約しておこう。

 株主にはなぜ、議決権が与えられているのか。株主には、企業の残余価値を最大限高めるというインセンテイブが働く。したがって、株主総会では、企業価値を高める議案には賛成し、企業価値を低める議案には反対する。つまり、株主に議決権を与えることによって、企業価値が高まることが期待されている。それが、株主に議決権が付与されている理由であり、会社法の根幹かつ大前提の考え方である。

 ところが、株主の多様化が進み、金融技術が進歩し、証券市場が発達すると、企業価値の増大には無関心、場合によっては企業価値を毀損させる行動に出る株主が登場した。例えば、ヘッジ・ファンドが投資している会社に対して、ショート・ポジションを取っている場合は、株価が下落したほうが利益は上がる。彼らにとっては、企業価値の増大よりも、株価の変動のほうが重要なのである。

 となれば、そのヘッジ・ファンドは、その会社の価値を高める議案に対して反対の議決権を行使するかもしれない。その行為は、企業価値を高めるために株主に議決権を与える、という会社法の根幹、大前提を根こそぎ否定してしまう。
 
 言い換えれば、この行為においては、本来株主として併せ持つべき企業価値を高め経済的利益を得るべき立場と議決権を行使する立場が、完全に分離してしまっている。この現象が、「エクイテイ・デカップリッグ」である。