昨年の12月8日、地上デジタル放送の施策で重要な新方針が、ひっそりとリリースされた。

 この「受信機器購入等支援の実施方法に係る検討結果の中間報告」(情報通信審議会、情報通信政策部会、地上デジタル放送推進に関する検討委員会、第41回資料)は、過去5年間の活動の集大成のようなものである。

 かねて総務省は、2011年7月24日を境に、現行の地上アナログ放送が見られなくなる事態に際して、「経済的な弱者対策として生活保護受給世帯には(アナログ受像機で地デジ放送が見られる)“簡易型チューナー”を無償配布する」という方針を打ち出してきた。そこに今回、新しく“特定の条件”が加えられたのである。

 それは、チューナーやアンテナなどを提供してもらえる対象が、全国に約120万件あるとされる生活保護受給世帯のうち、「NHKとの受信契約が締結されている世帯」に限定されたことである。

 NHKの受信契約ありきの新方針は、将来なんらかの事情でテレビが見られなくなる“地デジ難民”どころか、“地デジ棄民”が生まれる可能性を孕んでいる。裏を返せば、NHKの受信契約がなければ、支援の対象とはならず、廃テレビ同様に捨て去られることになる。

 今回の中間報告では、総務省の立場は監督役であり、各自治体の福祉事務所や生活保護受給世帯、実際に設備工事を請け負う民間法人等をめぐる実施体制案が整然とまとめられた。だが、「生活保護受給世帯からの申請に基づき、支援を判断する」と明記されている。

 生活保護受給世帯は、所定の条件を満たせば、NHKの受信料が全額または半額免除されるケースもある。それでも、まずNHKの受信契約のあるなしで、実質的に国家とその意を受けて動く社団法人によって、国民は選別されることになる。しかも、施策の裏側には、たび重なる不祥事の影響で契約率の低迷に悩むNHKのテコ入れ策が巧妙に隠されている。

 なにしろ、08年9月末時点で、NHKの総契約対象4788万世帯のうち、受信料を支払っているのは3391万件(71.0%)、支払い拒否や保留などの未収が263万件(5.5%)、そして契約拒否や転居先不明などの未契約が1124万件(23.5%)という体たらくなのだ。じつに、約4件に1件がNHKと契約すらしていないので、総務省も頭が痛い。

 それにしても、日頃から大上段に「国民の知る権利」を振りかざす新聞社やテレビ局は、放送免許を握る総務省に遠慮してか、管理を強化して弱者を切り捨てる危険な問題を報じていない。

 すでに、47都道府県での展開を想定して「テレビ受信者支援センター」なる機関が各地に新設されているが、これとて総務省OBとNHK出身者のための“受け皿”になることは目に見えている。いったい、誰のための地デジ施策なのだろうか。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)