1936(昭和11)年6月に帝国蓄音器(テイチク)から発売された「東京ラプソディ」は大ヒットした。古賀政男、藤山一郎の作曲家・歌手のコンビは5年ぶりに復活したのである。「花咲き花散る宵も……」と始まる美文調の軽快な詞で、古賀政男はそれまでのヨナ抜き五音音階ではなく、西洋音階で書いている。

藤山一郎の歌唱法

「東京ラプソディ」(1936年)大ヒット、<br />古賀政男と藤山一郎の戦略でテイチク飛躍藤山一郎の初期作品集「国民的歌手 藤山一郎全集~テイチク・ビクター編」(CD3枚組、日本伝統文化振興財団、2011)のジャケット。日本伝統文化振興財団はビクターが設立した公益財団法人。

 行進曲の速度、4分の2拍子、古賀政男は楽譜に「Paso Doble」(パソ・ドブレ)で、と指示している。パソ・ドブレはフラメンコ調のダンスのことだそうだ。前半はホ短調(Em)、上向音形で始めてやや哀愁を漂わせ、後半は一転してホ長調へ転調しオクターブ上のE(ミ)から下向音形の情熱的な曲想に変わる。

 1993年に東京都がアルバム「TOKYO」(BMGビクター)を制作したことは連載前回に書いた。収録曲10曲の歌手、作詞家、作曲家、編曲者を再掲する(★=オリジナル新作)。

①TOKYO~ instrumental~作曲編曲・服部克久★
②I LOVE TOKYO…本田美奈子、作詞・湯川れい子、作曲・小林亜星、編曲・鈴木武生★
③TOKYOプラスティック少年…男闘呼組、作詞作曲・高橋ヤズカ、編曲・男闘呼組&ゲーリー・チョビ★
④デスカルガ東京…ORQUESTA DE LA LUZ、作詞作曲編曲ORQUESTA DE LA LUZ★
⑤東京ブギ…GO BANG'S、作詞・鈴木勝、作曲・服部良一、編曲・GO BANG'S
⑥ウナセラディ東京~Vocalise~…佐藤しのぶ、作詞・岩谷時子、作曲・宮川泰、編曲・服部克久
⑦東京の屋根の下…EPO、作詞・佐伯孝夫、作曲・服部良一、編曲・服部隆之
⑧東京マップラップ…作詞・奥山侊仲、作曲編曲・宮川泰★
⑨東京ラブソディ…SMOKEY MOUNTAIN、作詞・門田ゆたか、作曲・古賀政男、編曲・ 堀井勝美
⑩TOKYO~Chorus version~…サーカス、作詞・岡田冨美子、作曲編曲・服部克久★

 本田美奈子さんの曲は新作で、⑨に「東京ラプソディ」が入っている。当時のこの新編曲版を聴くと、ヴォーカルがやや崩し気味に歌唱していてポップなのだが、音程が少しあやふやだ。古賀政男はホ短調からホ長調へ転調する面白さを出している。ホ長調は♯が4つ付くので、とくに短調のD(レ)と長調のD♯(レ♯)を明確に発声しないと長調へ転じた爽快感が曖昧になってしまう。