スイカ泥棒ならぬ、“Suica泥棒”という犯罪が近い将来日本に出現するかもしれない。

 偽札鑑定機器などを製造している松村テクノロジー(2003年設立)の松村喜秀社長は、SuicaやEdyなどの非接触ICカードへの犯罪に警鐘をならしている。松村社長はセキュリティ業界では知る人ぞ知る権威だ。

 実は、北朝鮮が作成した偽米ドル札「スーパーK」を発見し名づけたのも松村社長。偽札があると聞けば世界中に飛んでいき、犯罪者がいそうなエリアを歩き、探す。また、パスポートや運転免許証の偽造犯罪にも詳しく、大量の偽物を収集し鑑定のための技術を開発している。

 その経験を買われ、世界中の捜査機関から顧問などの形で協力も求められ、特に近年は急増するカードに関する犯罪対策に取り組んでいる。

 その松村社長が「犯罪者集団が次に狙っているのはSuicaなどの非接触ICカードだ」と言うのである。

 非接触ICカードの暗号が破られたとの報告はまだない。しかし、「破られない暗号はない。現在、限度額が2万円であることと普及率が低いことで犯罪者が手を出していないだけ」と指摘する。

 今後、限度額が引き上げられたり、国民全体が電子マネーを使うようになれば、必ず犯罪者は非接触ICカードを狙うようになるという。今は日夜、技術を磨いているところというのが松村社長の読みである。

 非接触というだけあって、離れた場所からでも情報を読み取ることが可能だ。「日本の機器では数センチしか読み取れないが、海外には数メートルの情報を読み取れる機器もある」。仮にセキュリティを破った違法な読み取り機を犯罪者が手にしたら、満員電車に乗り、街中を歩くだけで簡単におカネをせしめることができる。

 クレジットカードには一日に高額の商品を大量購入した場合などに、犯罪防止システムが異常を自動的に検出しカードの利用を停止する仕組みがある。 「電子マネーにはその仕組みも無いし、そもそも目に見えないためおカネを抜き取られたことに気づかない被害者も出てくるのでは」と松村社長は見る。

 松村テクノロジーでは、非接触ICカードを違法な読み取り(スキミング)から守る「ステルスカード」という商品をコンビニなどで販売し密かなヒット商品となっている。財布の中にカードと一緒に入れておくだけで読み取りを防げるという。

 「北京オリンピック開催で中国に集中しているアジアの犯罪者が(オリンピック終了後の)夏以降に日本に戻ってくることも(非接触ICカードのスキミング犯罪が増える)ひとつのきっかけとなるかもしれない」。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介)