経営者を陰で支える“黒子”であるがゆえ、真の実態が見えにくいコンサルティング業界。その現状と課題に迫る対談連載の第2回は、世界第3位の規模を誇るコンサルティング・ファーム、ベイン・アンド・カンパニー日本法人の会長兼パートナーである火浦俊彦氏に話を聞いた。ベインが志向する新たなコンサルティングに隠されたヒントとは。そして、これからの日本社会でコンサルタントたちが果たすべき役割とは――? (構成:日比野恭三)

並木 火浦さんは1986年に、日本興業銀行からコンサルタントへ転じられました。まずはその経緯からお聞かせいただけますか?

コンサルタントが売っているのは<br />改革者への“エネルギー”だ火浦俊彦(ひうら・としひこ)
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン 会長 兼 パートナー
東京大学教養学部教養学科卒業、ハーバード大学経営大学院修士課程(MBA)修了。日本興業銀行を経てベインに参画。25年以上にわたり、消費財、流通、自動車、金融、不動産、建設、ヘルスケア、エレクトロニクス、投資ファンド等、幅広い業種で、日米欧の企業に対するコンサルティング活動に携わる。大規模な企業変革に対し、クライアントと共にチームを編成し長期間関与するケースが多い。直近では企業のM&Aに数多く関係し、企業の統合支援にも深く関与している。主な著書に『リピータビリティ』(翻訳、プレジデント社)がある。

火浦 きっかけは、大前研一さんの著書を読んだことでしたね。『大前研一の新・国富論』(講談社、1986年)という本で、コンサルティングって面白そうな仕事だなと感じました。ちょうどその頃、商社からベインに転職した友人がいて、彼からコンサルタントとは何かという話を聞くうちに興味が増してきたんです。どこか神秘的な雰囲気のある職業でしたし、お会いしたベインの人たちから聞いたDedicated Focus(クライアントに対して献身を貫く)という言葉も新鮮だった。それでインスピレーションを得て、3年間勤めた興銀を辞めてコンサルティングの世界に飛び込んだわけです。

並木 実際にコンサルタントとして働き始めて、どのようなことをお感じになりましたか? また、業界の構造的な問題やフラストレーションを感じたことは……?

火浦 当時はようやく日本の企業がコンサルティングというサービスを使い始めた時期でしたから、企業の側もコンサルタントの側も一緒に仕事をするという経験が乏しく、お互いに手探りの状態でした。私がラッキーだったのは、数多くのプロジェクトをこなしていくというより、特定のクライアントと長く深く付き合う形で仕事ができたこと。その中で日々頭をひねりながら、コンサルティングという仕事を学ぶことができたんです。もちろんクライアント・ワークは大変でしたけど、心地よい大変さでしたね。