例外なく共産党にマーク
されている中国人留学生

 2014年6月4日、私はハーバード大学のキャンパス内で、地方政府の共産党幹部、Wさんとにらめっこしていた。

 日中関係や中国の経済・社会問題などをざっくばらんに語り合っていたが、時期が時期だけに、話題は自然と“天安門事件25年”に及んだ。

 共産党関係者であっても、1対1で、私的な場面であれば中国で25年間タブーとされてきた天安門事件の話ができたりする。複数のマルチな場面では、相互監視という観点から同事件を語るのを敬遠する中国人が多い。そういう場合は、私も空気を読んで話題を振らないようにしている。

「私はここハーバードで学んでいるような中国人留学生の問題意識や価値観に関心を持っています。中国人として、かつ自由民主主義を謳歌する環境で学んだ彼ら・彼女らが、将来的に中国の発展にどうコミットしていくか。特に、政治改革のプロセスをどう促すか。より具体的に言えば、アメリカで学んだ自由民主主義の概念をどう祖国に持ち帰るのか。中国民主化研究という観点から、彼ら・彼女らの動向を追っています。Wさんは何か考えるところありますか?」

 私の問題提起をしんみり聞いていたWさんは、20秒くらい沈黙を保ち、見解を選ぶように、言葉を絞り出すように、語りかけてきた。

「加藤さんの視角はユニークだし、テーマ設定としては面白いが、なかなか現実性に欠けるかもしれない。ハーバードに来ているような人間はみんな何かしらの形で中国国内と強いつながりを持っている。中国経済が発展しているなか、皆将来的に中国市場でカネを稼ぎたいと思っている。中国でカネを稼ぐ方法の鉄則は共産党を敵にしないことだ。下手に民主化を訴えたり、共産党政権を転覆するような言動を取れば、二度と中国ではまともに働けなくなるだろう」

 Wさんの言うとおりだ。

 中国という場所では“社会主義”と“市場経済”が密接につながっている。両者を戦略的につなげたのはトウ小平(トウの字は「登」におおざと)だ。共産党から政治的にNGの烙印を押された人間は当局から監視され、場合によっては制圧を受け、市場経済の舞台でもまともに活動できなくなる。

 Wさんは続ける。

「政治に関わるのであればなおさらだ。親が党の幹部だったり、大学教授だったり、大企業の幹部だったりすれば、その子孫は必ず保守派になるし、表には出てこない。ここアメリカだからこそ言動に慎重になるし、問題は決して起こさないはずだ。党はハーバードで学んでいるような学生はほぼ例外なくマークしているのだから」