名の知れたコンサルティング・ファームを起用したからといって、プロジェクトが常にうまくいくとは限らない。ときに数億円規模に達する高額なフィーに見合った成果を手にするには、依頼の内容や必要性を発注主である経営層が慎重に検討することが求められる。ソニーの元副社長・吉岡浩氏は、キャリアの中で様々なプロジェクトをコンサルティング・ファームに依頼してきたトップユーザーの一人。コンサルを最大限活用するにはどんな点に注意すべきなのか。また、コンサルティング・ファームの起用が企業にもたらすメリットとデメリットとは? “成功”と“失敗”をともに経験してきたという吉岡氏に、企業が知っておくべき「コンサル活用のコツ」を聞いた。(構成:日比野恭三)

並木 吉岡さんはソニー入社後、デジタル信号処理技術やビデオカメラの設計等を専門とするエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、後に副社長まで務められました。コンサルティング・ファームと最初に仕事をしたのはいつのことですか?

吉岡 2003年に、「ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズAB」(ソニーとスウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソンとの合弁会社)のCVP(Corporate Vice President)としてスウェーデン勤務を始めた時からですね。当時は新しく出来た合弁会社の経営が期待したようには改善せず、大きな危機感を持って赴任を致しました。

普段から外部の知恵を活用する風土が<br />日本の企業にはますます必要になる吉岡浩(よしおか・ひろし)
1952年愛媛県生まれ。75年京都大学工学部卒業、日本無線(株)入社。79年ソニー(株)入社、89年カムコーダ事業部部長、97年パーソナルオーディオビデオカンパニー バイスプレジデント、99年パーソナルITネットワークカンパニー バイスプレジデント、2001年4月ネットワーク&ソフトウェアテクノロジーセンター技術推進部門部門長、同年6月デジタルテレコミュニケーションネットワークカンパニー コ・プレジデントを経て、2001年10月ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社代表取締役社長に就任。2003年4月にソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズABのCVPとしてスエーデンに赴任。2005年10月に帰任。その後オーディオ事業本部長、テレビ事業本部長を経て2009年4月よりソニー執行役副社長、2012年4月メディカル事業担当、同年12月末退任。現在、複数の企業に対して社外取締役及びAdvisorの役を担っている。

 もともと現地では大手コンサルティング・ファームを活用することにある程度慣れていて、中期経営計画の策定など、年間契約の形で力を借りていたようです。私が赴任した当時、ソニー・エリクソンは緊急かつグローバルに対処しなければならない経営課題を抱えていましたので、あるグローバルファームにその解決への道しるべの役割を依頼することになりました。そこで初めて経営コンサルタントの仕事ぶりに触れたわけです。

並木 社内での解決を目指すのではなく、コンサルティング・ファームに依頼しようと考えたのはなぜですか?

吉岡 その経営課題というのは、当時の日本の通信機器メーカーがあまり対峙したことのない大きなスケールのものでした。欧米の競合会社はノウハウを持っているのに、我々はゼロから取り組まねばならず、これを自前でやるには情報収集だけで半年や1年はかかってしまう。でもコンサルティング・ファームは同様の課題に取り組んだ経験をすでに持っており、遅れを取り戻すためには彼らの知見や情報を活用する方が合理的だと考えたんです。そういう意味では、あの時はコンサルティング・ファームを使うバリューが明快でしたね。

並木 コンサルの扱いに慣れているスタッフがいて、明確な経営課題に長期的に取り組む土台もあった……。コンサルティング・ファームの側も力を発揮しやすい条件が整っていて、お互いの満足度が高い仕事ができる理想的な環境だったと言えますね。日本に帰国してからは、コンサルティング・ファームとどのようなお付き合いを?

吉岡 帰国したのは2005年ですが、同じファームの日本オフィスに私のことが引き継がれて、付き合いが続いていきました。「ヨシオカが帰国したからすぐに行け!」と、ヨーロッパ・オフィスの方から紹介があったみたいです(笑)。